
皆さん、こんにちは。
YKパートナーズの草野です。
僕のもとには、ときどき
「バイオマス発電は、バイオマス(植物)を燃やすから、温暖化につながっているんじゃないか。本当に地球環境にやさしい発電方法なの?」
という疑問の声が届きます。
しかし、バイオマス発電は「ネガティブ・エミッション(CO₂の削減)」につながるポテンシャルも秘められた、画期的な発電方法として世界中で注目をされています。
今回は「なぜ、バイオマス発電はネガティブ・エミッションになるのか?」についてお答えするとともに「バイオマス発電経営で押さえたいポイント」などについても、僕なりの考えをお伝えできればと思っています。
目次
1.実は「ネガティブ・エミッション」
バイオマス発電では、バイオマスを燃やし、その熱で水蒸気を発生させ、タービンを回転させて発電します。
つまり、バイオマスの燃焼時に二酸化炭素が発生するため「温室効果ガスを排出しているのでは?」と考えてしまう人がいるのです。
しかし、この点については「カーボンニュートラル」という考え方をもとに、明確に否定できます。
たしかに、バイオマスの燃焼時に、二酸化炭素が排出されるのですが、バイオマス(樹木など)は、大気中に漂っている二酸化炭素を絶えず吸収しながら成長します。
二酸化炭素を吸収して、酸素を吐き出す。
この仕組みは、小学校の理科の授業で習った記憶がある方も多いことでしょう。
つまり、バイオマスは成長過程で、じゅうぶんに二酸化炭素を吸収しています。
そのため、燃焼時に二酸化炭素の排出したとしても、植物のライフサイクルでみれば「イーブン(±0)」であり、大気中の二酸化炭素の総量は増えていません。
この考え方を「カーボンニュートラル」と言います。
・ネガティブエミッションを実現できる「BECCS」という技術
さらに、昨今では、「BECCS(ベックス/Biomass Energy with Carbon Capture and Storage)」という新技術が、話題を集めています。
BECCSとは、バイオマス発電所で、バイオマスの燃焼時に発生するCO₂を回収し、地下などに・貯留することで、温室効果ガスの排出抑制を実現する技術のことです。
「BECCS」を使えば、バイオマス発電所で、ネガティブ・エミッション(CO₂の削減)が実現できるため、大変注目されています。
その点については、以前「【専門家コラム】「BECCS」は「温室効果ガス」を減らす画期的な技術!」で詳しく解説しました。
改めて、重要ポイントを、以下に抜粋します。
大気中に、温室効果ガスが漂うと、そこで生じた熱は、宇宙に逃げることなく、あたかも「グリーンハウス(温室)」のように、貯めこまれてしまいます。これが「地球温暖化」の原因になっています。
一方、石炭や石油は、掘り起こさない限り、地中で眠ったままですから気化しません。つまり「温室効果ガス」を生じさせません。
BECCSは、この原理を応用したテクノロジーです。
バイオマス発電所で、バイオマス燃料を燃やしたときに生じる温室効果ガスを、大気中に放出させず、地下などに貯留することで、温暖化の防止に貢献できます。
以上の通り、「CO₂」が地中にあるのか、空気中に漂っているかが「温室効果ガスを生成するか否か」を左右するというわけです。
このことから、「CO₂」を貯留・固定するBECCSは「ネガティブエミッション技術」なのだと理解できます。
出典:【専門家コラム】「BECCS」は「温室効果ガス」を減らす画期的な技術!
以上の通り、BECCSと組み合わせてバイオマス発電所を運用すれば、温室効果ガスの排出抑制にもつながります。
ちなみに、ネガティブ・エミッションを実現できる発電方法は、バイオマスだけです。
「バイオマス発電×BECCS」は、温室効果ガスの排出削減に寄与できる画期的なコンビネーションだと言えるでしょう。
・農業残渣バイオマスを使えば燃料費を「ほぼゼロ」に
昨今では、焼却処分される予定の「農業残渣」をバイオマス燃料として活用すれば、バイオマス発電の経費の8割以上を占める燃料費を「ほぼゼロ」にできるとして、経営面でのメリットも注目されています。
農業残渣バイオマスは、作物の食べれない部分など、使い道のない残渣物によるバイオマス燃料です。
この使い道のない農業残渣バイオマスを使えば、コストを大幅に圧縮しながら、カーボンニュートラルやネガティブエミッションを推進できる可能性があります。
2023年1月には、PKS(パームヤシの殻)やEFB(パームヤシ果実房)など、14種類もの農業残渣バイオマスが「FIT認定燃料」として認可されました。
政府としても、農業残渣バイオマスの活用に前向きであることがうかがい知れます。
農業残渣バイオマスには、燃料費をほぼゼロにできるだけでなく、次のようなメリットもあります。
メリット | 概要 |
1.原料の賦存量(ふぞんりょう)が多い | 農業残渣バイオマスは、国内外に豊富に存在しているため、枯渇の心配が少ない |
2.食料と競合しない | 農業残渣バイオマスは「捨てる予定の部分」であるため、トウモロコシを使ったバイオエタノールのように、食料と競合しない |
3.原材料費がゼロ | 「捨てる予定の部分」なため「原材料費=0円」である(燃料用に加工する際に、加工方法によっては費用が発生する) |
4.「新産業」として利益をもたらす | 農業残渣バイオマスを使うための加工(乾燥・炭化など)が「新事業」として創出される。それが「新作業」として利益をもたらす |
5.雇用を創出する | 農業残渣バイオマスの「バイオマス燃料化事業(乾燥・炭化など)」により、雇用が生まれる |
出典:YKパートナーズ「【専門家コラム】近い未来、農業残渣・林業残材からSAFが作られる!【専門家コラム】近い未来、農業残渣・林業残材からSAFが作られる!」
2.バイオマス発電の普及にブレーキをかける環境活動家
このように、最新技術との組み合わせでネガティブ・エミッションを実現できることや、農業残渣バイオマスの活用による経営面でのメリットなど、バイオマス発電の魅力は豊富です。
ですが、私は少々、気になっていることがあります。
それは「環境活動家」や「グリーン活動家」からの“口撃”を恐れて、バイオマスの輸入に「及び腰」になってしまう企業が少なくないことです。
この「及び腰」の態度が、バイオマス発電の普及に水を差す事態に発展していることが、気がかりです。
一例として、電力会社による「ユーカリチップの輸入停止」が挙げられます。
とある電力会社が、火力発電の混焼用のバイオマスとして、オーストラリア産のチップを輸入していました。
オーストラリア産のチップは、ユーカリの再生林(二次林:伐採・火災・農地利用などで破壊されたあとに、自然に再生した森林)から伐採したもので、正規ルートを通じて仕入れたものです。
バイオマス発電のために活用したとしても、何の問題もないものでした。
しかし、環境活動家が中部電力の本社に押しかけたことで事態が一変しました。
環境活動家から、
「なぜ豪州チップを輸入されたのですか?」
「使用目的はなんですか?」
などと、その利活用に疑問を呈されたのです。
決して強い口調ではなかったものの、電力会社は、環境活動家たちの対応に、たじろぎました。
そして、「オーストラリア産のチップは、何かと問題視されそうだ」と感じ、チップの輸入を取りやめてしまったのです。
そもそもなぜ、環境活動家たちは、ユーカリのチップの輸入に難色を示したのでしょうか?
それは、ユーカリの樹は、コアラが食べる餌であり、コアラの住処にもなっているからです。
こうした背景を理由に、コアラを守りたい環境活動家たちは、オーストラリア産のユーカリの伐採・利用に反対しているのです。
中部電力の事例は、その余波を食らった格好ですね。
3.日本の製紙メーカーは毅然とした態度で環境活動家の主張をはねのける
一方、とある日本の製紙メーカーは、40年以上前から、製紙原料として、ユーカリのチップを輸入し続けています。
そのため、環境活動家による「反対運動」にも遭遇しました。
しかし、製紙メーカーは一貫して、
「我々は商社を通じて、オーストラリアで合法的に伐採と輸出が認められているユーカリを輸入している。何ら問題はない」
と主張し、毅然とした態度で、自社の立場を明確に表明していました。
電力会社と製紙メーカーの2社の間で、その対応は、きれいに二分された形です。
私自身は、オーストラリアで合法的に伐採・輸出が認められているものであれば、輸入しても問題はないものだと考えます。
環境活動家が、コアラの生態系を守りたいとする気持ちはわかりますが、その主張には、科学的根拠が乏しく、感情論を振りまいているに過ぎないと感じています。
4.「持続可能性・合法性・透明性」の説明責任を問われる時代である
しかし、時代は大きく変わりました。
SDGsが強く叫ばれる今の時代、決して環境に悪い取り組みではなくても、「環境に悪影響を与えるのでは?」と疑念を持たれた時点で、企業のイメージダウンにつながりかねなくなったからです。
今の時代は、3つのキーワードについて、説明することが求められています。
① sustainabililty (持続可能性)
② legality (合法性)
③ transparency (透明性)
① sustainabililty (持続可能性)
計画伐採を前提に、資源が枯渇しないように、再生可能なバイオマス(農業残さ、再植林された木材など)を燃料にしていること。
② legality(合法性)
正規ルートで合法的に伐採・輸出されたバイオマスを燃料にしていること。
③ transparency(透明性)
「この燃料は、どこの誰が、どうやって作ったのか?」が追える状態のバイオマスを燃料にしていること。
5.サステナビリティ認証を活用しよう!
この3点を第三者機関が証明してくれるのが「FSC」などの「サステナビリティ認証」です。
FSC(Forest Stewardship Council)とは、26カ国の環境NGO・林業者・林産物取引企業・先住民団体などによって設立された「森林管理協議会」のことです。
例えば、FSC認証がされたバイオマスであれば、生物多様性を守り、地域社会や先住民族、労働者の権利を守りながら、適切に生産された製品であることを証明できます。
「FSC」に加えて「「PEFC」「SBP」「 GGL」「RPSO」「 ARC」「 RBS」などの認証プログラムが政府の認めるところとなっています。
こうした認証プログラムの審査を通過したサステナブルなバイオマス燃料を活用し、対外的な説明責任を果たすことで、心置きなくバイオマス発電事業に専念できます。
中長期的な事業継続のためにも、サステナビリティ認証を受けたバイオマス燃料の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
6.まとめ
バイオマス発電は、BECCSとの組み合わせによってネガティブ・エミッションの実現を目指せる、数少ない“脱炭素型エネルギー”の一つです。
ですが、これからの時代、どれだけ技術的に優れた発電方法であっても、「社会的な信頼」がなければ、長く事業を続けることはできません。
バイオマス発電経営の安定を目指すうえでは、「持続可能性・合法性・透明性」の3つの原則に基づいた、サステナビリティ認証の活用が不可欠です。
FSCをはじめとする各種認証制度を味方につけ、環境と経済を両立しながら、バイオマス発電の未来を切り開いていきましょう!
今日はこのへんで。
また次回のバイオマスコラムでお会いしましょう。