食品分野の未利用資源を使ったバイオガス発電

バイオマスコラム
再エネ先進地域である欧州では、チーズ製造の副産物から発電する技術が実用化されつつあり、 バイオマス活用の可能性を広げています。

仏名産チーズで発電して、廃棄物ゼロに

フランスのアルプス山脈沿いの地方で生産されるコクのある「ボーフォール(Beaufort)チーズ」。2015年、サヴォワ県アルベールヴィルに建設された発電所では、この名産チーズの工場から出る副産物を原料に、近隣1,500世帯分(年間280万キロワット)の電力を供給しています。

チーズ製造過程ではホエイ(乳清)という副産物が発生します。ヨーグルトなどにもみられる透明な上澄み液でその豊富な栄養価が注目されてきていますが、チーズ生産現場では大量に廃棄処分されているのが実情です。

このホエイを嫌気性消化­させるとメタンガスと消化液が発生します。嫌気性消化とは、文字通り「空気が嫌い」なバクテリアによる発酵(嫌気性発酵)で食品廃棄物を分解し、その際に自然発生するガスを取り出す手法です。嫌気性発酵で発生したバイオガスを燃料に、ガスエンジンを回して発電するのです。

生成された電力は、国有企業「フランス電力」傘下のEDFエナジー(英本社)に売電されており、この発電事業によりボーフォールチーズ工場のホエイのほぼ全量が利用され、廃棄物ゼロを実現できているそうです。

英でもホエイ活用、資源循環にも貢献

イギリスでは、国内最大のチーズ製造企業「ファーストミルク」が2016年春から同社の工場施設内の嫌気性処理設備でホエイなどの食品廃棄物をメタンガスに変換、生成されたバイオガスを自社工場のエネルギー源とする一方、その80%を同国のガス供給事業者「ナショナル・ガス・グリッド社」のパイプラインに送っています。

2019年には、高級な「ウェンズリーデールチーズ」を年間4000トン以上製造するノースヨークシャー地元企業のウェンズリーデール・クリーメリー社が、発電施設を所有する環境ファンド「イオナ・キャピタル」と発電のためにホエイを提供する契約を同社と締結しました。

ウェンズリーデール・クリーメリー社のホエイはイオナ・キャピタルのガスプラントで嫌気気性処理され、取り出されたバイオガスから約1万メガワット以上の電力(4000千世帯に供給)が生み出されています。電力生成後のホエイのカスは土壌改良材として近隣の農家に配布され、循環型地域社会づくりにも貢献しています。