藻類バイオマスの大量培養技術

バイオマスコラム

現在、各国で藻類からのバイオ燃料の研究開発が進む中、最大の課題が『安価な大量培養技術』です。

 

米ユタ大学開発のジェットミキサー方式

2019年3月、アメリカ・ユタ大学の研究チームが、水中で生育する藻類からバイオ燃料を安価で大量につくる技術を開発しました。

藻類からのバイオ燃料生産の課題の一つが、安価で大量生産することの難しさにあります。池や、湖、川に住む微生物の中には、オイル(バイオ原油)を生産するものが含まれます。しかし、藻類からバイオ原油を抽出するためには、多くのエネルギーを投入する必要があり、生産に係るエネルギー効率が課題でした。

そこでユタ大学研究チームが開発したのが、これまでの抽出方法よりもはるかに少ないエネルギーでバイオ原油を抽出できるジェットミキサーです。このミキサーを使えば、バイオ原油をわずか数秒で抽出できるとのことです。

 

国内でも大量培養に向け着々と実績

⒈ ユーグレナとデンソー

異なるアプローチの2社がタッグ

2019年2月20日、ユーグレナとデンソーは微細藻類に関するさまざまな事業の実用化に向けて、包括的な業務提携を結ぶことで基本合意したと発表しました。

両社はそれぞれ違ったアプローチで異なる性質の微細藻類を扱っています。原料である微細藻類の培養から原油の抽出、精製、販売や利用まで、両社でノウハウと技術を補完し合うことを狙っています。

微細藻類のユーグレナ(ミドリムシ)を利用した機能性食品や化粧品で名が知られるユーグレナですが、現在は微細藻類由来のバイオ燃料の開発を推進しています。2019年末からは横浜市鶴見区にてバイオ燃料の製造実証プラントを稼働させています。

バイオ燃料の産業化の課題の一つが、原料の安定的調達です。

ユーグレナは廃棄された食用油とミドリムシを原料として扱っていますが、ミドリムシは気象条件によって収穫量が影響を受け、食用油は廃棄される量に限りがあります。そこで、ユーグレナはミドリムシと異なる条件で培養されているデンソーの微細藻類を原料の1つに取り入れることにより、原料の多様化を図りバイオ燃料の安定供給につなげます。

バイオ燃料の産業化に向けたもう1つの課題は、バイオ燃料の大量生産です。

微細藻類の大量培養に、ユーグレナは農学的な知見を生かしてきましたが、エネルギー産業として考えた時に、培養量の水準を引き上げる必要に迫られ、そこにデンソーが自動車部品の大量生産で培った管理や改善のノウハウなど、工学的な知見を取り入れることにこの提携の狙いがあります。

デンソーは、2008年から微細藻類の研究を開始。2010年には愛知県の善明工場にて工場から排出されるCO2を使った培養実証を、2016年からは熊本県天草市の廃校跡地を利用し、面積2haの施設を設けて屋外での大規模培養の実証を行っています。研究で得られた微細藻類は、保湿クリームやダカールラリーの参戦車両向け燃料で活用されてきています。

デンソーからユーグレナに提供するのは、コッコミクサKJ藻(旧名:シュードコリシスチス)です。増殖が速く、オイルを蓄積する能力が高いのが特徴です。デンソーは大学などと協力し、コッコミクサKJ藻の生産性向上や機能性成分の究明に取り組んできました。生産面では、遺伝子の改良により、オイル蓄積能力を1.7倍に高め、また、天草市の培養施設では藻の濃度や水温、日射量を制御することにより、培養量を1年で3倍に増やしました。

  

⒉ IHIなど

藻類の大量培養に成功

IHI、神戸大学、ネオ・モルガン研究所(現・ちとせ研究所)は2月6日、鹿児島市内にバイオ燃料用藻類の屋外大規模培養試験設備を建設、2015年度中に運用を開始すると発表した。

IHI、神戸大学、ネオ・モルガン研究所は2012年度より、「ボツリオコッカス株」の安定培養の技術開発を進めてきており、IHI横浜事業所内にて100㎡規模での屋外安定培養に成功。2015年には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」として、鹿児島県鹿児島市七ツ島に国内最大級となる1500m2の培養池を持つ屋外大規模培養試験設備を設置しました。

 

バイオジェット燃料の国際規格も取得

2020年6月、IHIと新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、同社が開発を進めてきたバイオジェット燃料が、国際的な標準化・規格設定機関である米国材料試験協会(ASTMインターナショナル)の国際規格「ASTM D7566 Annex7」を取得したことを発表しました。 今回承認を受けた「ASTM D7566」規格は、国際的な標準化・規格設定機関であるASTMが定めるバイオジェット燃料の製造に関する規格で、この規格に適合した燃料は既存のジェット燃料と同性状として、既存施設・設備の改修を必要としない燃料として認められたことになります。