藻類バイオマス燃料とは?市場規模2200兆円が期待されるすごい資源!

バイオマスコラム
Rainbow wrack alga Cystoseira tamariscifolia, underwater in the Atlantic ocean, Spain

藻類バイオマス燃料とは、微細藻類(びさいそうるい:ボトリオコッカスやシュウドココミクサ、ユーグレナなどが代表的)が行う「光合成」の代謝物として産生されるオイルが含まれた「バイオ燃料」のことです。

藻類バイオマス燃料は、飛行機のジェット燃料(SAF)などへの活用が期待される「新時代の燃料」として、熱いまなざしを注がれていることはご存知でしょうか?

本記事では「藻類バイオマスとは何か?」のほか、「藻類バイオマスを活用するメリット2つ」「藻類バイオマスを活用する際の注意点」など、詳しく解説します。

本記事を読むことで「なぜ、藻類バイオマスが注目を集めているのか」や「藻類バイオマスの将来性」について理解が深まります。

「藻類バイオマスとは何か知りたい!」

「藻類関連のエネルギー・燃料事業の『将来性』について知っておきたい」

といった方にとって、参考になる記事です。

それでは早速、みていきましょう。

1.藻類バイオマス燃料とは?

冒頭で説明した通り、藻類バイオマス燃料の定義は以下の通りです。

微細藻類は、いわゆる「藻(も)」です。

川、池、湖、海など、水があるところであれば、どこにでも棲息しています。

一般的には「ミカヅキモ」や「ユーグレナ」などが有名です。

小中学校の頃に、顕微鏡での観察をしたことがある人もいるのではないでしょうか。実物は、以下の写真の通りです。

出典:国立科学博物館「ちいさな『も』の世界

こういった微細藻類は、35億年前には存在していました。

今、地球上には多様な植物が生きていますが、その大元の祖先が「藻類」だと言われています。つまり、もっとも「原始的な植物」だということです。

従って、微細藻類も、一般的な植物と同様に「光合成」を行います。

光合成は、太陽光、二酸化炭素、窒素、リン、カリなどの無機物を取り込んで、酸素を作り出します。実は、そのプロセスで、オイルが産生されます。

そのオイル(液体燃料)が、飛行機のジェット燃料(SAF)などに活用できるため「新時代のバイオ燃料」として期待されているのです。

2.藻類バイオマス燃料を活用するメリット2つ

藻類バイオマス燃料を使うことには、大きく分けて「2つ」のメリットがあります。

一つずつ、みていきましょう。

①地球温暖化を抑制できる(=二酸化炭素の排出を抑制できる)

最大のメリットは「地球温暖化を抑制できる」ということです。

一般的なジェット燃料(SAF)の原料はケロシン(≒灯油)です。

ケロシンは、石油の一種であり、燃焼によって二酸化炭素が排出されます。

一方、藻類バイオマス燃料の原料である「藻類」は、光合成によって、二酸化炭素

を固着し、酸素を放出します。

つまり、一般的なバイオマスと同様に「カーボンニュートラル」です。

そのため、ケロシン(≒灯油)を使う場合と比べると、藻類バイオマス燃料を使った方が「地球温暖化の抑制効果がある」と考えられています。

②一般的なバイオマス燃料よりも「生産性」が極めて高い

「木質ペレット」や「廃材」などのバイオマス燃料よりも「藻類バイオマス燃料」の方が、「生産技術」さえ確立できれば「効率よく燃料を大量生産できる」と考えられています。

その理由は、大きく分けて2つあります。

理由①:使う水の量が植物よりも「ずっと少なくて済む」
理由②:面積あたりの収穫量が、桁違いに多い

理由①:使う水の量が植物よりも「ずっと少なくて済む」

藻類は、水棲生物なため「たくさんの水が必要」だとイメージしているかもしれません。

しかし、実は違います。

藻類の場合、水面から蒸発する水分のみで培養できます。

また、海に棲む微細藻類であれば、海水で培養できます。

枯渇が危惧されている淡水を用いなくてよい場合もあるため、一般的なバイオマス燃料よりも、生産ハードルが低いのです。

また、廃棄予定の「排水」も、培養に用いることができます。

比較的どんな環境でも、培養できる「ハードルの低さ」が魅力と言えるでしょう。

理由②:面積あたりの収穫量が、桁違いに多い

トウモロコシやダイズ、アブラヤシなどの「穀物系のバイオマス燃料」よりも、面積あたりの収穫量が、桁違いに多いのも「藻類バイオマス燃料」の特長です。

以下の表は、1ヘクタールあたりの年間オイル生産量(面積収率)の比較です。

ご覧の通り、生産性は、アブラヤシの「約8~23倍」です。

トウモロコシとの比較に至っては「約238~715倍」。

まさに“桁違い”ですね。

出典:株式会社日立総合計画研究所「藻類バイオ燃料

一時期は、トウモロコシを用いた「バイオエタノール」が話題になりましたが、生産性の低さや、食料と競合するなど、ネガティブな要因から、強い批判にさらされてきました。

藻類バイオマス燃料ならば、水と光さえあれば簡単かつ大量に培養できます。

こうした「培養のしやすさ(=培養に必要なエネルギーコストが低い)」も、藻類バイオマス燃料が期待されている大きな理由の一つです。

3.藻類バイオマス燃料を活用する際の注意点

藻類バイオマス燃料には、活用すべきメリットが豊富だということが、ご理解いただけたのではないかと思います。

一方、藻類バイオマス燃料には「気をつけたい注意点」があります。

メリットだけでなく「注意点」も踏まえることで「藻類バイオマス燃料の将来性」について、正しく理解できます。

結論からいえば、現時点では「実用化に至ってない」ことが、注意点として挙げられます。

藻類バイオマス燃料の実用化には「大量生産」が不可欠ですが、そのための技術が確立されていません。研究開発(R&D)の途上にあるというのが、現状ということです。

従って、航空機業界が

「SDGs経営の一環で、藻類バイオマス燃料を活用したい!」

と考えても、実際に活用できるほどの量が生産されておらず、コストも高くつき過ぎてしまうため、断念せざるを得ません。

すぐさま、藻類バイオマス燃料を活用することはできないのが、注意点といえるでしょう。

とはいえ、近年藻類バイオマスの研究は急速に活発化しています。

国立研究開発法人、大手企業、大学がタッグを組んで藻類バイオマスの開発に取り組んだり、藻類バイオマス燃料の開発を行う企業にビルゲイツ氏らが33億円の資金援助を行うなど、目立った動きがみられます。

以下、参考になりそうなニュースをまとめましたので、参考にしてみてください。

以下、参考になりそうなニュースをまとめましたので、参考にしてみてください。

藻類からバイオ燃料を製造するViridos、ビル・ゲイツらから約33億円を調達(2023年3月16日/ESG Journal)
世界初、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功(2023年4月12日/NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
世界最大規模の微細藻類生産設備「C4」で実証を本格開始―SAFの原料となる微細藻類の安定的な大量培養技術の確立を目指す―(2023年4月25日/NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

4.【専門家の視点】クルマメーカーは「藻類バイオマス燃料」に注目する可能性あり!

「藻類バイオマス燃料」は、「液体燃料の再エネ化」の実現が期待されているホープです。

こうした「液体燃料の再エネ化」は、今、注目を高まっています。

大きな需要が見込まれる分野の一つが「クルマ業界」です。

2022年末には、高級車メーカーが「二酸化炭素が原料の再エネ液体燃料を開発している」ことがニュースになりました。

こうした「再エネ液体燃料の開発」は、大きなムーブメントに発展するだろうと思います。

なぜならば、SDGs経営の一環で「燃料の再エネ化」に取り組むならば「EVよりもバイオマス燃料」と考えているからです。多くの自動車メーカーは「EV化」をそれほど歓迎していないのです。

その背景にあるのは「高性能のガソリンエンジンの開発競争」です。

クルマメーカー各社(ベンツ、BMW、アウディ、トヨタ、フェラーリ、ランボルギーニ、そしてポルシェなど)は、ガソリンエンジンの開発に社運をかけてきました。

内燃機関(つまり自動車用エンジン開発)こそ、各社の特色が現れる部分であり、力量でもあります。

一方、EV車では、当然のことながら液体燃料を用いないため、各社ごとの「差別化」がしにくいです。

今まで、莫大な費用を積み上げてきた「エンジンの強み」が生かされないのを、クルマメーカーは喜びません。

メーカー各社としては、独自に開発してきた「エンジンの魅力」をアピールしたいものです。

ですから、自動車メーカーによる「再エネ液体燃料の開発」は、大きなムーブメントに発展する可能性が高いのです。

なかでも、藻類バイオマスは、一般的なバイオマス燃料よりも、生産性が高いなど、メリットが豊富なため、僕は、とても注目しています。

5.まとめ

いかがでしたか。

「藻類バイオマス燃料とは何か?」について、理解が深まりましたでしょうか。

ここで本記事の内容を整理します。

●藻類バイオマス燃料とは?

微細藻類(そうるい:ボトリオコッカスやシュウドココミクサ、ユーグレナなど)が行う「光合成」の代謝物として産生されるオイルが含まれたバイオ燃料のこと

●藻類バイオマス燃料を活用するメリット・注意点

本記事が、藻類バイオマス燃料について知りたい方のお力になりましたら幸いです。