先月のバイオマスコラム「【専門家コラム】脱炭素化のカギは「バイオマス国産化計画」である!(前編)」では、「バイオマス発電は“再生可能エネルギーのホープ”であるにもかかわらず、なぜ普及しないのか?」という疑問に切り込む記事をUPしました。
私は「バイオマス発電の発電コストの高さ」がネックになっているのではないかという仮説を立てました。
そこで、全発電方法における「発電コスト・稼働率・稼働年数」を比較しました。
資源エネルギー庁の調査を原典として確認したところ、たしかにバイオマス発電は、ほかの発電方法よりも「発電コストが高い」ことが明らかになりました。
しかしながら、なかなかクローズアップされない「稼働率」と「稼働年数」も比較したところ、ほかの発電方法よりも優秀であり、非常にコストパフォーマンスが高い発電方法であることがわかりました。
さらに、日本の電源構成の70%を占める火力発電所の化石燃料を、バイオマス燃料に置き換えるだけで「脱炭素化」が推進できます。
その点も大きなベネフィットである点もお伝えしました。
従って、バイオマス発電の普及には発電コストの70%を占める「バイオマス燃料の調達費」を削減する方法を考えるべきだと提言いたしました。
その提言の本丸が「バイオマス国産化計画」です。
バイオマス燃料の価格半減を実現する「バイオマス国産化計画」 |
1.輸入材を撤廃し「100%国産材」由来のバイオマス燃料を活用・輸出する 2.ハイパフォーマンスな伐採機器の導入で国内の林業の「効率化」を推進する 3.耕作放棄地への早生樹エネルギー植林を行う 4.林地の所有権に関する問題を解決する |
本コラムは、私の考える「バイオマス国産化計画とは一体何なのか」について、詳しく解説します。
一つずつ、見ていきましょう。
目次
1.輸入材を撤廃し「100%国産材」由来のバイオマス燃料を活用・輸出する
冒頭でお伝えした通り、脱炭素化の“ホープ”である「バイオマス発電」を普及させるには、発電コストの7割を占める「バイオマス燃料の調達費」を低減することが何よりも大切です。
そのために取り組みたいことをまとめたのが「バイオマス国産化計画」です。
この「バイオマス国産化計画」において、柱になるのが「輸入材を撤廃し『100%国産材』由来のバイオマス燃料を活用・輸出する」というアイデアです。
ご存じの方も少なくありませんが、実は、日本は国土の68%が森林の「森林資源大国」です。
先進国のなかではフィンランドに次いで、森林の割合が多いのは、意外と知られていない事実です。
それは、全国的に十分な降水量があり、樹木がスクスクと育つ土壌だからです。
日本の場合、人工林が4割で、天然林が5割、竹林などが1割ほどで構成されています。
せっかくバイオマスの国内における賦存量が多いのですから、もっと活用しようというのは、とてもシンプルなアイデアです。
しかし、現状では、輸入材にも頼っているのが現状です。
令和3年(2021年)における「燃料材」のうち、36.6%が「輸入材」です。
令和4年(2022年)においては、41.0%が「輸入材」でした。
出典:林野庁「参考資料_木材需給の推移等」
ここで、あなたは一つの疑問を感じたのではないでしょうか?
「海外から輸入材を仕入れるとなると、輸送費がかかる。日本で調達した方が安く済むのでは?」
もっともな疑問ですね。たしかにそのはずです。
国内調達であれば、海外よりも輸送費はかからないはずですから、本来であれば、調達コストを低減できるはずです。
それにもかかわらず、日本は、海外から材木を大量に輸入しています。
その理由は、国産材よりも、海外から仕入れる輸入材の方が安いからです。
一言で言ってしまえば「国産材はやや割高、輸入材はお手頃」なのです。
現状において、国産材の方が高いのは「コスト削減のための努力を怠っているから」です。
つまり、バイオマス国産化は「国内林業の低コスト化」が実現できれば、割と簡単に解決することなのです。
この、誰もが思いつく“シンプルかつ当たり前の発想・アイデア”を、決して無視してはならないと思っています。
2.ハイパフォーマンスな伐採機器の導入で国内の林業の「効率化」を推進する
日本国内の林業は海外のようにコスト削減に向けて努力していない。
これはなかなかシビアな指摘だと思いますが、いろいろと工夫をすれば、国産バイオマス燃料の低価格化は可能なのです。
ですから、悲観的にならず、前向きに明るく考えていきたいものです。
一つはとてもシンプルですが「ハイパフォーマンスな伐採機器の導入で国内の林業を効率化する」というアイデアがあります。
日本の森林は、真平ではありません。急峻で複雑な地形ゆえに、伐採の難易度がそれなりに高く、伐採・搬出にコストがかかります。
そのため、安全性が高く、作業の効率化も可能な林業マシンを導入するのが手です。
事実、海外では、高性能マシンを使った伐採によって、作業の効率化が驚くほど進められています。
林業に高性能機械をどんどん導入し、林業に携わる人の負担軽減に努めることが大切です。
出典:林野庁「高性能林業機械とは」
それと同時に、林業家の皆さんの「意識改革」に取り組むことも大切です。
これは実際に聞いた話なのですが「補助金が付くので高価な機械を買うことにした」「息子が高級車を欲しがっているので、今年は木を5本伐採することにした」といった考えのもと、伐採に取り組んでいる方も少なくないようです。
数ヵ月ほど、樹木を伐採をしたら、あとは伐採マシンを完全放置……なんてことも少なくありません。
高価な伐採マシンが十分に活用されていないのです。
一般の中小企業であれば、ただちに倒産してしまうことでしょう。
しかし、補助金をジャブジャブともらえるから、安穏としていられるのです。
私は、この点について、切り込むことが大切だと思ってます。
具体的には、林業組合のようなものを作って、林業機器を共同購入し、林業マシンを積極的に活用し、伐採量を増やしていくのです。
さらに、林業家が一本一本切り倒して……というよりも、「農業」に近いコンセプトで「樹木の伐採」から「バイオマス燃料」の製造まで、一気通貫で行うことも必要だと思っています。
サトウキビのハーベスターのように、効率のよいマシンで一気に伐採し、チップ化まですれば、大量生産とコストダウンが同時に叶うからです。
「施業の部分でコストダウンを図る」は、我が国が得意とする分野です。
政府は「国産バイオマスを重視」という方針を打ち出しています。
そのため、こうした方向に進むものと思っています。
3.耕作放棄地への早生樹エネルギー植林を行う
国産バイオマス燃料を安定的に、安価に製造するには「耕作放棄地への早世樹エネルギー植林」も重要な施策の一つになると思います。
皆さんもご存じの通り、日本では「耕作放棄地」「農業放棄地」の問題が深刻です。
農家さんの数が減ってしまって、使われずに放置された耕作放棄地が全国にたくさんあるのです。
こうした耕作放棄地や、農業放棄地に「早生樹」を植林し、3~5年のローテーションで伐採し、それをバイオマス発電用の燃料として使うのがよいと、私は考えています。
早生樹とは、一般的な樹木よりも成長が早く、10~25年程で収穫でき、スギやヒノキよりも、伐採までの材積成長量が大きな樹種のことです。
一般的には、センダン、ユリノキ、チャンチンモドキ、コウヨウザンなどが挙げられます。
早生樹の開発を進めることが、国産バイオマスの量産につながるものと考えられます。
3年ほど前には、東大の研究員でもある株式会社本郷植林研究所の小野康宏さんが、ハコヤナギ(別名:ポプラ)の独自品種「もりのみらい17号(品種登録出願済)」を開発されたことがニュースになりました(出典:PR TIMES「双日、スギの成長量を大幅に上回る早生樹苗木の生産事業に参画」)。
国産バイオマスの量産化には「耕作放棄地の活用 × 早生樹の植林」の合わせ技で進めたいです。
4.林地の所有権に関する問題を解決する
国内の電力需要をまかなうだけの国産バイオマスを量産するためには「林地の所有権に関する問題」の解決も、喫緊の課題です。
なぜならば、現状は「国産のバイオマス燃料をどんどん作ろう!」と思っても、そう簡単には伐採できないからです。
現状、一つひとつの山の所有権が、100名以上に分割されていたり、何世代もの相続を経て複雑になっていたりと、簡単には伐採ができない状況が続いているのです。
数十人、数百人と所有者がいるとして、全員の許可を取るのは、非現実的です。
だから、林地は荒れ果て、放置されたままなのです。
日本は国産バイオマスを量産できるだけの広大な森林地があるのに、もったいないというほかありません。
どうしたら、この所有権の問題を解決できるでしょうか?
さまざまなアイデアがあると思いますが、所有者の合意にかかわらず、地方自治体や国が、接収できるようにするのが、一つのアイデアです(これは実際に始まっているとも聞きます)。
例えば、米国カリフォルニア州では、数年前に山火事が多発して、膨大な森林が消失し、多くの住民が避難を余儀なくされました。
「これではいけない」ということで、カリフォルニア州政府はNGO団体に委託して「住民が森林火災などで被害を被らないように、森林を適切に管理し、必要に応じて間伐を行い、必要に応じて林地残材の処分も行う」ことを推進しました。
「GSNR」という事業ですが、こうした動きも日本では必要ではないかと思っています。
以上の通り、バイオマス国産化計画について、私の考えをお伝えさせていただきました。
バイオマス燃料の価格半減を実現する「バイオマス国産化計画」 |
1.輸入材を撤廃し「100%国産材」由来のバイオマス燃料を活用・輸出する 2.ハイパフォーマンスな伐採機器の導入で国内の林業の「効率化」を推進する 3.耕作放棄地への早生樹エネルギー植林を行う 4.林地の所有権に関する問題を解決する |
バイオマス燃料の国産化を推進することで、脱炭素化のホープである「バイオマス発電」はもっと普及していくはずです。
日本としても「脱炭素化」はなんとしても成し遂げたいミッションですから、国産バイオマス化計画の重要度は今後、高まっていくものと考えています。
5.まとめ
いかがでしたか。
「バイオマス国産化計画」について理解が深まりましたでしょうか?
バイオマス発電の普及のためには「バイオマス国産化計画」の実現が急務だと、僕は考えています。
本稿の締めくくりとして、最後に大切なことを一つ、お伝えしたいと思います。
昨今では、「電力」の話になると「脱炭素化」や「再生可能エネルギー」が話題にのぼります。
ですが、私たち日本人が本当に考えなければならないのは「エネルギー自給率」です。
我が国は、石炭も石油も90%以上、海外に頼ってきました。
LNGや原子力にいたっては100%です。
この状況について、多くの人は、何の疑問も抱かずに日々、生活していますが、よくよく考えてみると、とても恐ろしいことです。
有事の際に、海外からのエネルギー・ライフラインが途絶えてしまうと、たちまち電力不足に陥ってしまうからです。
今のうちから、エネルギー自給率の向上に向けた手立てを考えておくことは喫緊の課題です。
「バイオマス国産化」は、脱炭素化だけでなく、エネルギー自給率の向上という側面からも、今すぐにでも着手すべき重要事案だと、私は考えています。