【専門家コラム】トランプ政権発足後の「エネルギー政策」一体どうなる?

バイオマスコラム

皆さん、こんにちは。

YK Partners株式会社の代表・草野です。

皆さんもご存じの通り、11月に行われたアメリカの大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプさんが、日本メディアの予想に反して、大勝を収め「次期大統領」に選出されました。

バイデン氏率いる民主党は「再生可能エネルギー推進」の立場を取っていましたが、トランプ政権が発足したら、アメリカのエネルギー政策はどうなっていくのでしょう?

また、アメリカの影響を強く受ける日本には、どのような影響があるのでしょうか?

今回は、さまざまな事例を踏まえつつ、トランプ政権発足後のエネルギー政策の動向について、私なりの予測をお伝えしたいと思います。

1.世の中は「トランプ政権発足後のエネルギー政策」をどう予測している?

まずは「世の中が、トランプ政権発足後のエネルギー政策がどう変わると見ているのか」について、ご紹介したいと思います。

一つ、参考になるのが「日本総研」のレポート記事です。

2024年11月7日付けの「Research Eye」では、トランプ政権発足後に、次のような変革が行われるのではないかと述べられていました。

●米国の環境・エネルギー政策は大幅に転換するかもしれない
●最低3年以上は「パリ協定」から離脱するかもしれない
●化石燃料の採掘が増えて、温室効果ガスが増えるかもしれない
●再生可能エネルギーや蓄電池への税控除が縮小されるかもしれない
●アメリカの政策の影響を、日本の蓄電池・EV企業が受けるかもしれない

つまり、再生可能エネルギー政策における趨勢(すうせい)としては、「再エネ推進」の動きに水が差される可能性があるという見解です。

念のため、原文も載せておきます。

(1)11月5日に行われた米大統領選挙では、共和党のトランプ氏が勝利し、連邦議会選挙でも、上院は共和党が過半数を確保、下院も過半数確保の見通し(図表1)。同氏の公約などを踏まえると、米国の環境・エネルギー政策は大幅に転換する可能性(図表2)。主な政策変更は、以下の3点。
(2)第1に、国際連携からの離脱。トランプ氏はパリ協定から再離脱する姿勢。離脱期間が数ヵ月にとどまった前回と異なり、今回は短くても3年以上に(図表3)。加えて、途上国の気候変動対応を支援する緑の気候基金への資金拠出も撤回する可能性。米国が国際連携から離脱することになれば、気候変動対応に関する国際的な合意形成が難航するほか、途上国支援全体が滞る恐れ。
(3)第2に、環境規制の緩和。自動車の環境規制が緩和されれば、電気自動車(EV)等の普及が遅れ、温室効果ガス(GHG)排出量が最も多い輸送部門の排出削減が停滞。加えて、トランプ氏は、化石燃料の増産に向けて、関連プロジェクトの承認を迅速化する姿勢。GHG排出対策が不十分な中小企業による化石燃料の採掘が増えて、採掘に伴う排出量が増加する可能性。
(4)第3に、インフレ抑制法(IRA)の修正。同法の全面的な撤廃は見込まれないものの、EV購入や再生可能エネルギー発電、蓄電池の導入に対する税控除などが縮小される可能性。
(5)今後、わが国政府は、こうした米国の政策動向を踏まえて国内の脱炭素戦略を機動的に見直すとともに、欧州等と連携して、世界的な脱炭素機運の醸成や途上国支援の強化にこれまで以上に貢献することが求められる。また、蓄電池・EV等の分野で米国に進出するわが国企業は多く(図表4)、米国の政策動向に応じて、事業戦略や生産・販売計画などを見直す必要がある。

出典:日本総研「Research Eye」(2024年11月7日付け)

2.「パリ協定離脱」で「温室効果ガスの削減目標」はなかったことに

「日本総研」のレポート記事の予測の通り、私自身も、トランプ政権への移行後は「パリ協定を離脱するだろう」と見ています。

その裏づけとなる情報の一つが、Bloomberg(ブルームバーグ)による2024年11月7日付けの記事です。記事では、トランプの再エネ政策について、次のように言及しています。

●トランプ氏は選挙期間中、民主党の気候変動対策を「新たなグリーン詐欺」と呼び、批判してきた
●「原油増産」と「発電所の増設」に重点を置く方針を転換する見通しである
●「石油・天然ガス企業」が最も恩恵を受ける見通しである
●トランプ氏は、EV販売を促進する一連の政策の廃止を公約に掲げてきた
●「液体の金(原油・ガス)をエネルギー開発のために解放する」と発言している
●液化天然ガス(LNG)輸出が拡大する見通し
●洋上風力発電に対しては「鳥やクジラに影響が及ぶ可能性がある」として批判を繰り返しているため、新プロジェクトの許可を停止する可能性がある

出典:Bloomberg「原油からEVまで、トランプ氏勝利で一変する米国のエネルギー政策」

トランプさんの考えは、昔から一貫しています。

前回、アメリカの大統領だった際には、次のような発言を残しています。

昨年にパリ協定から離脱する意向を示した際には、「私はパリではなくピッツバーグの市民を代表するために選ばれた。アメリカの国益にならない協定からは離脱するか再交渉を行うと約束する」と述べている。

出典:BBC NEWS JAPAN「米政府、パリ協定離脱を正式通告 気候変動対策に暗雲(2019年11月5日)

こうした情報を踏まえると、次期大統領になった暁には、過剰すぎるインフレで疲弊しているアメリカ国民を救うべく「ガス輸出」「石油輸出」を後押しするような政策を優先的に進めるだろうと思います。

トランプさんは、選挙中に、国民との間で交わされた「Make America Great Again!(偉大なアメリカを再び!)」の約束を果たすのです。

その結果、パリ協定でアメリカが掲げた「2025年までにGDP当たりの二酸化炭素の排出量を26‐28%削減」するという目標に向けた取り組みは、いったんストップする可能性が高いでしょう。

出典:デコ活 全国地球温暖化防止活動推進センター「パリ協定

また、バイデン政権は「2035年までに電力を100%脱炭素(カーボンフリー)」にし、自然エネルギーと蓄電池を最優先にする指針を掲げていますが、その目標もいったん、ペンディングされるでしょう。

3.しかし、州単位では「再エネ」に向けて邁進している

以上の通り、国単位では、これまでのエネルギー政策から大きく転換するでしょう。

しかしながら、アメリカにおいては、注意しなければならない点があります。

それは、アメリカが「合衆国」であり、「再エネ化」については各州が独自の方針を打ち出して取り組んできたという事実です。

そして、私たちが想像している以上に、州によっては「再エネ化」が進んでいるという事実があることも注視していただきたいです。

・カリフォルニア州は2045年までに「クリーンエネルギー100%」を目指す

例えば、カリフォルニア州は、2010年から2019年の9年間で、クリーンエネルギー比率が15%もUPし、60%となりました。

とりわけ太陽光発電は過去10年間で飛躍的に拡大しました。

2010年にはほとんど導入されていませんでしたが、2019年には州全体の発電量の約20%を占めるまでに成長しているのです。

クリーンエネルギーの推進の背景にあるのは、2018年における「RPS(Renewables Portfolio Standard、自然エネルギー利用割合基準)」の改正です。

従来の基準では、2030年までに自然エネルギーの供給を「50%」にすることを定めていましたが、それを「60%」に押し上げたのです。

この目標の達成に向かって、急ピッチで再エネ化を推進しているというわけです。

さらに2045年までに「クリーンエネルギー100%」を達成する目標も、新たに付け加えているのは、皆さんにとっても、驚きを伴う事実ではないでしょうか。

出典:自然エネルギー財団

世界の核心的な脱炭素政策:米国カリフォルニア州

・ニュージャージー州では2030年までに「再エネ比率50%」を目指す

ニュージャージー州も、再エネ化を力強く推進しています。

同州は、RPS法に基づき、2025年までに電力の35%、2030年までに50%を再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。

それは、2021年までに州内の電力販売事業者が供給する電力のうち「5.1%」を、新らに設置した太陽光発電から調達することを意味します。

出典:メガソーラービジネス

北米最大の水上メガソーラー、浄水場で自家消費

ニューヨーク州では2030年までに「再エネ比率70%」を目指す

ニューヨーク州では、2019年7月に成立した「気候リーダーシップおよびコミュニティー保護法(CLCPA法、Senate Bill S6599)」において、数々の大胆な目標を設定しています。

・2030年まで再生可能エネルギー比率を70%にする
・2030年までにニューヨーク州の「温室効果ガス排出量」を40%削減(1990年比)
・2040年までに電力の「100%ゼロエミッション化」を目指す
・2050年までに「温室効果ガス排出量」を85%削減(1990年比)」
・2050年までに経済活動でのカーボンニュートラルを達成
・2035年までに9000メガワットの洋上風力発電開発を目指す
出典:JETRO(日本貿易振興機構(ジェトロ))
米NY州、NJ州のクリーンエネルギー電力投資の動向

2022年におけるニューヨーク州の電源構成は、半分以上がクリーンエネルギーとなっており、今後とも、脱炭素社会の実現に向けて邁進していくものと見込まれます。

以上の通り、3つの州における「再エネ政策」を取り上げましたが、こうした動きは、ほかの州にも見られることだと思います。

これまで、コツコツと再エネに向けた努力を積み上げてきたのに、その努力を反故にするようなことを行うとは、なかなか考えにくいです。

なお、アメリカ全体としては、再エネ比率は日本とほぼ同等となっており「22.4%」に達しています。

諸外国に比べれば、大きな割合ではありませんが、それでも、1/5の電力はクリーンエネルギーでまかなわれているのが事実です。

この電源構成が大きく変わることはないというのが僕の考えです。

出典:自然エネルギー財団「米国が2035年に電力を100%脱炭素へ、自然エネルギーに注力

4.まとめ:トランス政権発足後も「再エネ政策」は続行されるのでは

先ほどお伝えしました通り、各州が地道に積み上げてきた再エネ政策の歴史を踏まえると、トランプ新政権が発足したからと言って、これまで積み上げてきた努力をリセットすることはないだろうと思います。

アメリカの政策の影響を受けやすい日本の再エネ業界や再エネ方針にも、そう大きな影響はないでしょう。

とりわけ、バイオマス業界へのインパクトはほとんどないと、私は見ています。

日本は、アメリカからのバイオマス燃料を購入していますが、アメリカにとっては「自国製品の輸出」であり「内需拡大」につながる歓迎すべき貿易だからです。

しかも「150円」という円安の環境であっても、日本は粛々と、買い支え続けてくれるのですから……。

余談ですが、トランプ新政権の発足で、私が興味深いと思っているのは、イーロン・マスクさんが政府効率化省(DOGE)のトップになったことです。

電気自動車「テスラ」の創業者であるイーロン・マスクさんは、電気自動車(EV)反対のトランプさんと、どのように折り合いをつけていくのでしょうね?

イーロン・マスクさんの思惑は鮮明ではありませんが、「アメリカ政府に深く入り込んで、自社のビジネスにとって有利に事が運ぶようにしたい」と考えているのは間違いないでしょうね。

皆さんのご意見もぜひ、お聞かせください。それではまた!