バイオマスコラム
2025.01.20

【専門家コラム】太陽光発電ビジネスの「5つの注意点」とは?(後編)

皆さん、こんにちは。

YK Partners株式会社の代表・草野です。

前回のコラム「【専門家コラム】太陽光発電ビジネスの「5つの注意点」とは?(前編)」では、太陽光発電ビジネスにおける注意点を2点、お伝えしました。

【太陽光発電ビジネスに存在するリスク】
・【収益性のリスク】太陽光で発電した電気の買取価格は安い
・【安全上のリスク】土砂崩れの原因になりうる

太陽光発電の買取価格は、たった10年ほどで、「1/4程度」まで暴落しており、今後とも買取価格が下がる可能性があり、収益性の点で疑問符がついていることをお伝えしました。

さらに、太陽光パネルを設置できる場所がほとんどないなかで、山を削り出して設置すると、土砂災害を引き起こすリスクがあることをお伝えしました。

太陽光発電ビジネスには「収益性」と「安全性」におけるリスクが存在しているのです。

後編では、太陽光発電ビジネスにおいて発生しうる「SDGs上のリスク」をご紹介したいと思います。

太陽光発電は「持続可能なクリーンエネルギー」というイメージがあるかと思いますが、実はそうとも言い切れない側面も抱えているのです。

【太陽光発電ビジネスに存在するリスク】
・【SDGs上のリスク①】「自然環境・生物多様性」に悪影響を与える可能性がある
・【SDGs上のリスク②】「パネルの廃棄処分」は環境負荷が大きい
・【SDGs上のリスク③】「食料自給率に悪影響を及ぼす」という批判がある

これら3つのリスクも踏まえたうえで、太陽光発電ビジネスに踏み出すか、重々検討いただきたいと思います。

それでは早速、見ていきましょう!

1.【SDGs上のリスク①】「自然環境・生物多様性」に悪影響を与える可能性がある

実は、太陽光パネルの設置によって「環境破壊」が引き起こされていることはご存じでしょうか?

具体例としては「釧路湿原国立公園(北海道釧路市)」が挙げられます。

釧路湿原国立公園は、タンチョウを始めとする貴重な動植物の生息地です。

手つかずの雄大な自然を体感できる人気観光スポットですが、近年、突如として「広大なメガソーラーパネル地帯」が広がるようになりました。

これにより、貴重な動植物の生態系の影響に、悪影響を及ぼすことが懸念されているのです。

例えば、「絶滅危惧ⅠB類」に指定されている「キタサンショウウオ」という体長12㎝ほどの両生類などは、太陽光パネルの大規模な設置によって、生存域が脅かされていると言われています。

こういったことが全国各地で起これば、生態系への悪影響は甚大なものとなります。

太陽光パネルは、動植物の生態系に悪影響を及ぼす可能性があることを、知っておくべきです。

2.【SDGs上のリスク②】「パネルの廃棄処分」は環境負荷が大きい

発電のプロセスで「太陽光」を活用する太陽光発電は、クリーンエネルギーとみなされていますが「廃棄処分」も含めて考えると、疑問符がついてしまいます。

第一に、太陽光パネルの主要な材料である「シリコン」は、その製造プロセスにおいて、塩素や水素を使用しますが「オゾン層の破壊」につながることが指摘されています。

また、太陽光パネルに含まれているカドミウム、鉛などの重金属は、太陽光パネルが経年劣化などによって破損すると、その成分が漏れ出し、土壌汚染につながり、その回復には数十年とかかる可能性が指摘されています。

これらの化学物質には、呼吸疾患、皮膚疾患、発がん性、神経毒性なども指摘されており、私たち人間に与える健康上のリスクも考慮しなければならないでしょう。

3.【SDGs上のリスク③】「食料自給率に悪影響を及ぼす」という批判にさらされやすい

太陽光パネルを設置すると、その下の地面は日も当たらないので、農地として使えません。

日本は、ただでさえ、食料自給率が38%ほどしかないのですから「農地に転用すべきだ!」「農地として作物が植えられたのに……」というのが、政府の考えですし、多くの国民が考えることだと思います。

従って、太陽光パネルの設置そのものが「食料自給率に悪影響を及ぼす」という批判にさらされやすいものだと認識しておくべきです。

イタリアのメローニ首相などは、農地へのソーラーパネルの設置を「食料主権をおびやかすもの」として、禁止にしました。

その代わりに、地上2.1m以上の高さがある「営農型」ソーラーパネルの設置を義務づけました。

この「営農型ソーラーパネル」であれば、パネルの下で、作物の栽培ができるようです(出典:日本経済新聞「[FT]イタリア政権、農地での太陽光発電に『待った』」)。

メローニ首相は、非常に合理的な判断のもと、再エネ化を推進しているように思います。

こういった視点は、日本も見習うべきですね。

4.太陽光発電ビジネスの参入は慎重に判断しよう

太陽光発電ビジネスのリスクについて、前編・後編に分けて、5つの視点をお伝えさせていただきました。

【太陽光発電ビジネスに存在するリスク】
・【価格面のリスク】太陽光で発電した電気の買取価格は安い
・【安全上のリスク】土砂崩れの原因になりうる
・【SDGs上のリスク①】「自然環境・生物多様性」に悪影響を与える可能性がある
・【SDGs上のリスク②】「パネルの廃棄処分」は環境負荷が大きい
・【SDGs上のリスク③】「食料自給率に悪影響を及ぼす」という批判がある

太陽光発電は、再生可能エネルギーの「1番バッター」でしたので、FIT補助金もたっぷりとついて、多少の環境問題にも目を瞑った状態でスタートました。

当初は収益性もよかったのですが、現在では、さまざまな問題が明るみになっています。

従って、太陽光発電ビジネスの参入は、慎重に検討してほしいというのが私の率直な感想です。

皆さんのご意見もぜひ、お聞かせください。

5.とはいえ脱炭素化に役立つ「再生可能エネルギー」の一つ!

とはいえ、僕は「完全に排除すべき」とまでは思っていません。

太陽光発電も、脱炭素化に役立つ再生エネルギーの一つだからです。

今後は、当初から懸念されていた問題点を十分に検証して、次のステージに進む必要があると思っています。

では具体的に、私たちは、太陽光発電と、どう付き合っていけばよいのでしょうか?

識者によって、さまざまな考え・見解があると思いますが、私は、環境負荷の少ない「安全な廃棄方法」を確立したうえで「工場や住宅の屋根のみに限定する」というのが今後のベストな付き合い方だと思っています。

再生可能エネルギーである以上、環境負荷は低く保つべきです。

そのため、現在大きな問題となっている「廃棄処理」について、安全かつ環境汚染につながらない手段を確立することが望まれます。

そのうえで、土砂崩れなどのリスクが生じず、食物との競合や、生態系への影響は最小限に留められる設置場所ということで「工場や住宅の屋根」のみに限定するというアイデアです。

そうすれば、大きな懸念なく、活用していけるのではないでしょうか。

なお、東京都は、2025年4月から「新築住宅」の屋根に太陽光パネルを設置することを義務付けているようですから、日本全体としてもそうした方向に向かっていくのではないでしょうか。

また、全く別のアイデアですが、中東やアフリカなど、太陽が降り注ぐ土地を買い上げ、日本の電力会社が「大規模太陽光発電事業」を興すのもありだと思います。

そこで発電した電気を、物理的な送電線で日本まで送るのではなく、デジタルネットワークで販売することができればよいと思います。

Wattで電力を販売するのではなくBit(ビット、つまりデータ単位)で販売するということです。

Bitは「今月のあなたのスマホのデータ使用量は何ギガバイトでした」のアレです。

発電量をビットに換算してデジタルマーケットで売り買いできるようになれば「設置場所がない!」という日本特有の問題を解消しつつ、太陽光発電による「再エネ化」を推進することができるでしょう。