こんにちは。
バイオマスの現場を20年以上見てきた草野です。
前編では、企業が発電事業者から再生可能エネルギーを直接調達する「コーポレートPPA」について解説しました。
後編では、世界的なIT企業であるGoogleが「コーポレートPPA」を積極的に活用している理由や、その背景にある「24/7カーボンフリー電力」という考え方について解説します。
さらに、「24時間365日、安定して使えるカーボンフリーエネルギー」という視点から、私がバイオマス発電に大きな可能性を感じている理由についてもお話しします。
それでは早速、見ていきましょう。
目次
1.なぜGoogleは「コーポレートPPA」に力を入れるのか?
「コーポレートPPA」は、すでに世界的なIT企業も活用する電力調達手段になっています。
その代表例がGoogleです。
2024年9月には、オリックスグループのスペイン子会社「Elawan Energy」がGoogleとコーポレートPPAを締結しました。
そして、アメリカのテキサス州ヒル郡の太陽光発電所でつくられる「約37MW(直流ベース)」の再生可能エネルギーをGoogleへ供給する計画で、発電所は2026年に運転開始予定と発表しています。
では、なぜGoogleはここまで再生可能エネルギーの調達に力を入れているのでしょうか?
その背景にあるのが、Googleの掲げる「24/7(トゥエンティフォー・セブン)カーボンフリー電力」という目標です。
2.「24/7カーボンフリー電力」とは?
「24/7カーボンフリー電力」とは、簡単に言えば、「24時間365日、電気を使うその時間に合わせて、CO₂を排出しない電力を確保する」という考え方です。
「24/7」とは、「24時間・週7日」、つまり「24時間365日ずっと」という意味です。
これまで企業の再生可能エネルギー調達では、「1年間に使った電気と同じ量の再生可能エネルギーを、年間で調達する」という考え方が一般的でした。
たとえば、あるデータセンターが昼夜を問わず年間100万kWhの電気を使っているとします。
その場合、年間100万kWh分の再生可能エネルギーを調達すれば、年間の使用量と再エネ調達量を合わせることができます。
しかし、ここには一つの問題があります。
太陽光発電でつくられる電気は、基本的に昼間だけです。
一方、データセンターは夜中も動き続けています。
つまり、年間の合計では「100%再エネ」になっていても、夜間など実際に電気を使っている時間には、火力発電などの電気が電力網から供給されている可能性があるのです。
そこでGoogleが目指しているのが、「24/7カーボンフリー電力」です。
年間の合計量だけを合わせるのではなく、「電気を使う時間」に合わせて、その地域でカーボンフリー電力を確保する。
昼間だけではなく、夜中に電気を使うなら、夜中にもCO₂を排出しない電力を確保するという考え方です。
つまり、「年間で100%再エネ」から、「24時間365日、実際に使う電気をカーボンフリー」にしようというのが、「24/7カーボンフリー電力」の考えなのです。
Googleは2030年までに、世界中のデータセンターやオフィスで、「24/7カーボンフリー電力」を実現する目標を掲げています。
ところが、この「24時間365日」という高い目標を実現しようとすると、大きな問題が出てきます。
3.太陽光は無理、じゃあほかの発電方法は?
前編のコラムでもお伝えしましたが、現在、コーポレートPPAで主力となっている電源は「太陽光発電」です。
他の再生可能エネルギーと比べて導入コストを抑えやすく、建設期間も比較的短いため、導入のハードルが低いからです。
ところが、先ほど説明した「24/7カーボンフリー電力」を実現しようとすると、太陽光発電には大きな弱点があります。
太陽光発電は、その名のとおり「太陽が出ているとき」にしか発電できないからです。
一方、Googleのデータセンターなどは、昼も夜も関係なく24時間365日動き続けています。
つまり、太陽光だけではどうしても埋められない「夜間の穴」が生まれるのです。
では、「太陽光が難しいなら、24時間発電できる別のカーボンフリー電源を使えばいいじゃないか」と思いますよね。
もちろん、その候補はいくつかありますが、現場の視点から見ていくと、それぞれに普及を難しくする高いハードルがあります。
3-1.地熱発電――「どこでもつくれる」わけではない
地熱発電の大きな強みは、太陽光や風力のように天候や時間帯に左右されにくく、安定して発電できることです。
ところが、日本では地熱資源が豊富な地域の一部が国立・国定公園内などにあり、自然環境への配慮や温泉事業者をはじめとする地域との合意形成が必要になります。
また、地下の資源を調査して実際に発電所を稼働させるまでには、長い年月と多額の開発費用がかかります。
さらに、地下からくみ上げる熱水に含まれる成分によって、配管などに「スケール」と呼ばれる付着物がたまったり、設備が腐食したりするため、継続的なメンテナンスも欠かせません。
3-2.ガス火力+CCS――CO₂を「地中に埋める」難しさ
もう一つの選択肢が「ガス火力+CCS」です。
CCSとは、火力発電所などから排出されるCO₂を回収し、地下深くに貯留する技術のことです。
火力発電の安定性を生かしながら、CO₂排出量を大幅に削減しようという考え方です。
ただし、CO₂を回収する設備に加えて、輸送設備や貯留に適した地下構造も必要になるため、実施できる場所は限られます。
そのため、実用化・普及に向けてはコスト低減も大きな課題となっています。
さらに、燃料となるLNG(液化天然ガス)は海外からの輸入に大きく依存しているため、国際情勢や資源価格の影響を受けるという課題もあります。
「CO₂を回収して地中に貯めれば解決」と簡単にいかないのが、CCSの難しいところです。
4.24時間365日動かせる“大本命”は「バイオマス」!
では、太陽光では埋められない「夜間の穴」を補い、天候にも左右されず、すでに実用化されている電源はないのでしょうか?
そこで私が“大本命”と考えているのが、「バイオマス発電」です。
なぜなら、バイオマスには「24/7カーボンフリー電力」と非常に相性のよい、2つの大きな強みがあるからです。
4-1.天候に左右されず、24時間安定して発電できる
1つ目は、太陽光や風力のように、天候や時間帯によって発電量が大きく左右されないことです。
バイオマス発電は、木質チップや木質ペレットなどの燃料を燃焼させ、その熱で蒸気をつくり、タービンを回して発電します。
そのため、燃料を安定して確保できれば、太陽が沈んでも、風が吹かなくても、24時間計画的に発電を続けることができます。
24時間365日動き続けるデータセンターなどにとって、「必要な時間に安定して発電できる」という特徴は、非常に大きな強みになります。
4-2.火力発電で培われた設備や技術を活用できる
2つ目の強みが、これまで火力発電で培われてきた設備や技術を活用できることです。
バイオマス発電も、燃料を燃やして熱を生み、その熱で蒸気をつくってタービンを回すという基本的な仕組みは、従来の火力発電と共通しています。
そのため、既存の石炭火力発電所などでバイオマス燃料を混焼したり、必要な設備改修を行ってバイオマス燃料を活用したりすることも可能です。
「夜間でも安定して発電できる」
「既存の発電技術やインフラを活用できる」
この2つの強みを持つバイオマス発電は、「24/7カーボンフリー電力」の実現を支える有力な選択肢になると、私は考えています。
5.バイオマスPPAの現状と導入事例
バイオマス発電を活用したPPAの実績も着実に登場しています。
その一例が、再生可能エネルギー事業を手がける「レノバ」です。
レノバでは、これまでFIT制度に基づいて売電していたバイオマス発電所について、コーポレートPPAへの切り替えを進めています。
2026年1月時点では、3つのバイオマス発電所、合計145.4MWでコーポレートPPAを契約しています。
つまり、「企業がバイオマス発電の電気を長期的に購入する」という仕組みは、すでに日本でも現実のものになっているのです。
24時間安定して発電できる電源が求められるようになれば、バイオマス発電の価値はさらに高まっていく可能性があります。
出典:
・レノバ「唐津バイオマス発電所」の営業運転開始および国内需要家との PPA(電力購入契約)締結に関するお知らせ」
https://www.renovainc.com/news/business/pdf/20250930_01_PRESS.pdf
・レノバ「2026年3月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」
https://www.renovainc.com/news/ir/pdf/20260213_01_PRESS.pdf
6.まとめ
いかがでしたか?
前編・後編にわたり、コーポレートPPAの基本から、Googleが目指す「24/7カーボンフリー電力」、そしてその大本命としてバイオマス発電が注目される理由について解説しました。
「年間で再生可能エネルギー100%」から「24時間365日、電気を使うその時間までカーボンフリーにする」ことを目指すようになれば、求められる電源も変わってきます。
そこで大きな可能性を秘めているのが、天候や時間帯に左右されず、安定して発電できるバイオマスです。
バイオマス発電がどこまで存在感を高めていくのか、今後の動向にも、ぜひ注目してみてください!
7.これまでありがとうございました!
さて、最後に読者の皆様へ、一つご報告があります。
長らくお届けしてきたこの「バイオマスコラム」ですが、今回をもって最終回となります。
これまで、バイオマス発電の基本的な仕組みから、業界が抱える課題、そしてこれからの可能性まで、20年以上現場を見てきた私なりの視点でお伝えしてきました。
このコラムが少しでも、バイオマスについて知るきっかけや、日本のエネルギーの未来を考えるきっかけになっていたら、これほどうれしいことはありません。
連載はいったんここで幕を閉じますが、私たちの挑戦が終わるわけではありません。
日本には、まだ十分に活用されていない森林資源があります。
その資源を持続可能なエネルギーへ変え、地域に電気や熱を届け、地域そのものを豊かにしていく。
そんなバイオマスの未来を目指して、私はこれからも現場の最前線を走り続けます。
これまでコラムを読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
またいつか、バイオマスの明るい未来が実現した現場で、皆様とお会いできる日を楽しみにしています。