こんにちは。
バイオマスの現場を20年以上見てきた、草野です。
今、エネルギー業界では、水素やアンモニアが「次世代のホープ燃料」として注目を集めていることをご存じでしょうか?
「二酸化炭素(CO₂)を出さない」
「既存の火力発電所をそのまま活かせる!」
そんな夢のようなフレーズが並ぶエネルギーだからです。
ですが、エネルギー業界の現場を20年以上を見てきた私から言わせてもらえば、「ちょっと待った」です。
「実際に、今後数年で、商業ベースでの稼働が現実的なのか?」という観点に照らし合わせてみると、どうも腑に落ちない点が多いのです。
まず、“前編”となる今回のコラムでは、水素・アンモニア活用のメリットを整理します。
そのうえで、後編のコラムでは「水素・アンモニア発電の普及を阻む壁」について、バイオマス専門家である私の視点で、ズバッと解説する予定です。
それでは早速、見ていきましょう!
目次
1.そもそも「水素・アンモニア発電」とは?
最近、「水素発電」や「アンモニア発電」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、「そもそも水素発電って何?」「アンモニア発電とは?」と、どのようなものなのかよくわからないという方も少なくないでしょう。
そのため、ここではそれぞれの発電について、簡単にご説明しましょう。
・水素発電とは?
水素発電とは、その名の通り「水素を燃料にして電気をつくる」発電方式です。
なお、燃料となる水素は、次の3種類があります。
・グレー水素:化石燃料をもとに製造
・ブルー水素:化石燃料をもとに、燃料製造時のCO2の排出を抑制して製造
・グリーン水素:再生可能エネルギーを使って、水を電気分解して製造
現状では、グレー水素が主流ですが、ブルー水素やグリーン水素への転換が望まれています。
なお、水素を燃料とする「主な発電方式」には、汽力発電(ボイラー利用)とガスタービン発電の2種類です。
・アンモニア発電とは?
次に、アンモニア発電について、簡単にご説明しましょう。
アンモニア発電とは、アンモニア(NH₃)そのものを燃料として燃やし、発電する方式です。
ボイラー(石炭火力)に混焼・専燃する「ボイラー発電タイプ」の発電方式が主流です。
「燃料を燃やして高温のガスをつくり、その熱でタービンを回す」という、いわゆる火力発電の基本構造をそのまま使います。
石炭火力発電において、アンモニアを混焼するのが基本の考えですが、将来的には、専燃が目指されています。
なお、アンモニア発電では、光化学スモッグや酸性雨の原因になる窒素酸化物の発生を抑える技術的な対策が必要となる点は押さえておくべきです。
2.水素・アンモニア発電の「2つのメリット」
次に、水素・アンモニア発電が、「次世代燃料のホープ」と呼ばれている理由を見ていきましょう。
ポイントは大きく分けて2つあります。
| 【水素・アンモニア発電の「2つのメリット」】 |
| ・燃焼時にCO₂を出さない「クリーンな発電」である ・既存の火力発電所を活かして「ゼロエミッション」を実現できる |
一つずつ、見ていきましょう。
2-1.燃焼時にCO₂を出さない「クリーンな発電」である
なんと言っても、一番のメリットは「燃焼時にCO₂を出さないこと」。
皆さんもご存じの通り、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすと、大量の二酸化炭素が排出されます。
たとえば2022年の場合、日本全体のCO₂排出量は年間約10億3700万トンにのぼり、そのうち約9割以上がエネルギー起源CO₂だと言われています。
特に石炭火力は、主要な発電源の中でも最もCO₂排出が多い電源です。
ライフサイクル全体の排出量としては、1kWhの発電あたり、石炭は約820g、天然ガスでも約490gのCO₂を出すとされています。
この“燃やす電力”こそが、地球温暖化の最大要因といわれるゆえんです。
CO₂は大気中で長期間とどまり、地球の平均気温上昇や異常気象の増加を引き起こす主因とされていますから、看過できるものではありませんね。
一方で、水素は燃やしても水しか発生しません。
アンモニアも炭素を含まないため、燃焼プロセスでCO₂を排出しません。
つまり、これまで地球温暖化の元凶だった“燃焼”という行為そのものを、地球にやさしい形へ置き換えられるのです。
政府は、水素発電とアンモニア発電をまとめて「ゼロエミッション火力」と呼んでいます。
カッコいい名前ですが、要は“燃やしてもCO₂が出ない火力発電”のことです。
もっとも、実際には「カーボンフットプリント」と呼ばれる全体評価が必要です。
水素やアンモニアを海外で製造し、液化・輸送・再ガス化する過程では、間接的にCO₂が発生するからです。
それでも、従来の化石燃料と比べればトータルで排出量を大幅に削減できる点に変わりはありません。
このように、「温室効果ガスを排出しないゼロエミッション発電」であることこそが、水素・アンモニア発電が世界的に注目を集めている理由なのです。
2-2.既存の火力発電所を活かして「ゼロエミッション」を実現できる
もう一つのメリットは、新しい発電設備をイチから作らなくても、ゼロエミッションを実現できることです。
太陽光や風力は、専用の発電設備を設計・設置しなければなりません。
しかし水素・アンモニアの場合は、既設の火力発電所を活用できます。
発電の心臓部であるタービンやボイラー、送電網といった既存の巨大なインフラを大きく変えず、バーナなど一部を改造するだけで混焼できるため、初期投資を大幅に抑えつつ、CO₂排出を削減できるのが大きな魅力です。
日本政府がこの方式を推進している背景には、「エネルギー・トランジション戦略」という考え方があります。
これは、化石燃料に依存したエネルギーのあり方から、少しずつでも、再生可能エネルギーや低炭素エネルギーへと移行する「長期的なプラン」です。
3.まとめ
前編となる本記事では、水素・アンモニア発電が「次世代のホープ燃料」と呼ばれる理由として、2つのメリットをお伝えしました。
| 【水素・アンモニア発電の「2つのメリット」】 |
| ・燃焼時にCO₂を出さない「クリーンな発電」である ・既存の火力発電所を活かして「ゼロエミッション」を実現できる |
しかし、メリットがある一方で、水素・アンモニア発電には、「普及を阻む“3つの壁”」が存在します。
| 【水素・アンモニア活用に立ちはだかる3つの壁】 |
| ・【第1の壁】危険物としての「扱いの難しさ」 ・【第2の壁】莫大な投資コストと ・【第3の壁】発電に必要な燃料を確保できない |
中編では、これら3つの壁について徹底的に解説します。
最後に一言だけ。
世界に目を向けると、「脱炭素」という方向性はすでに大きな潮流になっています。
アメリカでは、トランプ前大統領がパリ協定から離脱しましたが、それでも州レベルではカリフォルニア州をはじめ、多くの州が強気に脱炭素へ舵を切っています。
つまり、国のトップがどう動こうが、世界全体の“脱炭素ドミノ”は止まっていないのです。
こうした背景のなかで、水素やアンモニアは、「次の主役候補」として注目度がぐんぐん上がっています。技術としてはまだ育ち盛りですが、いま確実に期待が集まり、現場では着実に前進が始まっています。
今回はこのへんで。
次回の記事でお会いしましょう!