
皆さん、こんにちは。
YK Partners株式会社の代表・草野です。
今回は、2025年2月時点における“最新”のトピックスとして「バイオマス発電所の現状」についてお伝えしたいと思います。
目次
1.バイオマス発電業界は「燃料高」で苦戦を強いられている!
「バイオマス発電」と言えば、再生可能エネルギーのなかでは、FIT買取価格が高く、収益化しやすい発電方法として注目されてきました。
例えば、2024年度における太陽光発電の買取価格は「8.9円~15円/1KWh」ですが、バイオマス発電における買取価格は「24円/1KWh(一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料の場合)」であるなど、価格優位性があります。
収益性については、過去のコラム「【専門家解説】バイオマス発電所の収益性は?初期費用回収は最短8年」でもお伝えした通り、燃料調達さえうまくいけば、最短8年で初期費用を回収し、その後は毎年2億円以上の収益が上げられる可能性もあり、収益性も申し分ありません。
さらに、火力発電所の燃料を石炭からバイオマス燃料に置換するだけで「再生可能エネルギー事業」を始められることもあり、SDGS時代の発電ならば、“バイオマス発電がベスト”といった向きもありました。
しかし、ここのところについては、バイオマス発電業界の活気が落ち着きつつあります。
その理由の一つは、バイオマス発電所の経費の約80%を占める「バイオマス燃料の調達コスト」が高騰しているからです。
ロシア・ウクライナ戦争以降、ロシア産の輸入木材を始めとする燃料の流通が滞りました。その結果、世界的にエネルギー価格が高騰したのは皆さんのご存じのとおりです。
日本の場合には、円安の影響も無視できないくらい大きなものとなっています。
そうした社会情勢のなかで、バイオマス燃料が高騰し、燃料調達に苦戦するバイオマス発電会社に暗雲が立ち込めているのです。
【224億円の巨額赤字を計上した「鈴川エネルギーセンター」の稼働停止!】
この事実を物語る象徴的なニュースは、2024年12月に報じられた「鈴川エネルギーセンター株式会社」の事業停止です(出典:Yahoo!ニュース「バイオマス発電事業の鈴川エネルギーセンター(静岡)が事業停止」)。
同社は、三菱商事エナジーソリューションズ、日本製紙、中部電力の3社による合弁会社として、2016年より、石炭火力発電事業をスタートしています。
2022年には「SDGs時代」の本格的な到来を予見してか、石炭燃料を木質ペレットとA重油を燃料とした「バイオマス発電所」に転換しました。
そして、2024年3月期には「138億円8700万円」もの売上高を記録するほど、業績が好調に推移していました。
ところが、バイオマス発電所に置換して以降、ロシア・ウクライナ戦争の長期化するなか、輸入木質ペレットを主な燃料としていたことで「燃料調達コスト」が上昇してしまいます。
その結果、「224億1900万円」もの巨額赤字を計上し、債務超過に転じてしまったのです。
こうした経緯のなかで、鈴川エネルギーセンターは、2024年12月に発電所を停止。
発電所再開のメドは立っておらず、今後の展開には不透明感が漂っています。
鈴川エネルギーセンターの事例は、224億円もの巨額赤字を計上したことで、大きな話題になりましたが、これは氷山の一角にすぎないでしょう。
燃料費の高騰が冷めやらない状況ですから、バイオマス発電所の事業停止は、今後とも増えていくのではないかと、僕は予想しています。
バイオマス発電業界が再び盛り返すには「FIT制度」における買取価格を大幅に引き上げるしかありません。
しかし、政府がそこまでのテコ入れをしてくれるかと言えば、それは難しいと思います。
バイオマス発電の買取価格は、ほかの再生可能エネルギーよりも、規定値として高額に設定されており、政府としても「今まで、十分すぎるほどに手厚い買取保証を行ってきた!」という考えがあるからです。
2.業界に激震!「輸入バイオマス燃料」を使うバイオマス発電はFIT制度の対象外に!
バイオマス発電業界に、さらなる追い打ちをかけるニュースが、2025年1月に駆け巡りました。
それは、これからバイオマス発電に新規参入する場合、「1万Kw以上の発電所において、輸入バイオマス(ペレット、チップ、ヤシ殻)を用いる場合」および「アブラヤシから搾ったパーム油などの輸入液体燃料を用いる場合」については、2026年度以降より『FIT制度』の“対象外”とするという経済産業省の決定です。
つまり、2026年度以降は、新規参入するバイオマス発電事業者は、国産材のバイオマス燃料を使わない限り、FIT制度による「買取保証が受けられなくなる」のです。
既に、FIT制度の適用を受けているバイオマス発電事業者は、これまで通り、FIT制度の適用が受けられますが、新規参入を試みようとしている事業者にとっては、とても残念なニュースといえるでしょう。
これまで、国内のバイオマス発電所は、70%ほどを輸入ペレットに頼ってきました。
その理由は至極シンプルで「輸入材の方が安いから」です。
そんな現状があるというのに、新規のバイオマス発電事業者に対しては「輸入材は使うな」と、経産省は宣告したのですから、暴論に近いものと感じられます。
しかし、政府の“感情的な部分”を読み解くと「輸入ペレットにはさんざん痛い目に遭わされてきた」という、拭い去れない“遺恨”が透けて見えるのも事実です。
具体的には、ベトナムを始めとする輸入ペレットメーカーが、FSC認証を偽造した「粗悪なバイオマス燃料」を日本に輸入し、ボロ儲けし続け、国内のバイオマス発電所での「火災事故」にまで発展してきたことが挙げられます。
偽装が発覚したのは2021年。
森林管理協議会(FSC)が、ベトナム企業を調査した結果、木質ペレットは、FSC認証の基準を満たさない「不純物が混入した粗悪品」だったことが発覚しました。
さらに、粗悪な輸入ペレットが原因とされる、バイオマス発電所の爆発事故が日本で頻発するなど、ゆゆしき事態に発展していることなどが、2026年度以降の「FIT停止」の一因であると考察されます。
13日早朝に火災が発生したのは、北九州市若松区にある「響灘エネルギーパーク合同会社」運営のバイオマス発電所。オリックスグループの発電所だ。発電所に燃料を運ぶベルトコンベアから出火しているのを職員が見つけ、消防に通報。4時間後に鎮火した。同施設は輸入木質ペレット等を石炭と混焼させて発電している。出火当時、発電所は稼働中だったが、けが人等はなかった。
出火原因は調査中。関係者の間では、燃料として使っている輸入木質ペレットの品質不良が原因ではないかとの見方が出ている。同社は今年度に入ってからの4~7月の4カ月だけでベトナム製の木質ペレットを約7万6000トン輸入している。
出典:一般社団法人環境金融研究機構「輸入木質ペレットの「品質不良」が原因(?)で、大規模バイオマス発電所のトラブル相次ぐ。北九州では火災発生。背景にアジアからの燃料認証の偽造問題も(RIEF)」
以上の通り、一部の外国のペレットメーカーによる悪行が、FIT停止問題の一因だと推察されますが、外国産のバイオマス燃料の品質チェックについては、政府も商社も発電会社も行ってきませんでした。このことも、今一度「回顧すべき点」だと、僕は思っています。
粗悪なバイオマス燃料の混入を防ぐべく、ダブルチェック、トリプルチェックする体制を整えておき、爆発事故などの看過できない事態を未然に防げれば、日本政府の沸点は、ここまで上昇しなかったかもしれません。
輸入材に対する遺恨が蓄積し、さらに諸外国では、バイオマス発電に対するFIT制度への締め付けが増しているなかで下されたのが「新規参入者は輸入材利用ならばFIT廃止」という決定に表れているように思えてなりません。
今後、新規参入を予定しているバイオマス発電所のオーナーに求められるのは「いかにして、国産のバイオマス燃料を安価に調達するか」という非常に難しいミッションの突破です。
このミッションをクリアしなければ、経営難に陥る可能性が高いです。
FIT制度ができた当初こそ、FIT制度の恩恵は大きく、多くのバイオマス発電所が立ち上がりました。
しかし、2025年の最新の状況としては、本項でお伝えした通り、バイオマス発電業界には、“逆風が吹き荒れている”と考えて間違いないのです。
(出典:一般社団法人環境金融研究機構「経産省。再エネ電力の「固定価格買取制度(FIT)」でのバイオマス発電の対象から輸入燃料を除外方針。韓国の政策に追随。消費者が払う「再エネ賦課金」の「過払い金返却」も必要(RIEF)」)。
3.バイオマス発電業界を救う道は「バイオマス国産化計画」かもしれない
なお、私は過去に、我が国においては、外国産のバイオマス燃料を完全に撤廃し、オール国産材によるバイオマス発電所の運営こそが、日本が脱炭素のミッションをクリアするための“切り札”になるとお伝えしました。
名付けて「バイオマス国産化計画」です。
私が考案した「バイオマス国産化計画」については、以下のコラム記事でたっぷりと語っていますので、興味がある方は、ご参照いただければ幸いです。 輸入材を使えなくなったバイオマス発電業界には逆風が吹いている。 そうであれば、その逆風を“逆手”に取り、「バイオマスの国産化」を推進することで、「脱炭素」を実現するというシナリオこそが、バイオマス発電業界の生き残る道なのではないでしょうか? 上記の参考記事をお読みいただき、「今後、バイオマス発電業界を盛り上げる方法」について、あなたのアイデアがありましたら、ぜひお聞かせください! 本日はここまで。 また来月のバイオマスコラムでお会いしましょう! |