
目次
1.「ブラックペレット(半炭化バイオマス)」が“石炭の代替燃料”として脚光を集めている!
2025年2月の記事「【2025年最新】なぜ今、バイオマス発電所が苦境に立たされているのか?」では、バイオマス発電業界に逆風が吹き荒れていることをお伝えしました。
簡単におさらいすると、次の2つの理由から、経営難に陥るバイオマス発電所が増えていく可能性があることをお伝えしました。
【今、バイオマス発電所が苦境に立たされている理由】 |
・「輸入ペレットの価格高騰」で経営難のバイオマス発電所が増加している! 日本のバイオマス発電所は燃料の約70%を「輸入ペレット」に頼ってきた。ところが、ロシア・ウクライナ戦争以降のエネルギー価格の高騰、円安の進行などにより、それまで比較的安価だった「輸入ペレット(バイオマス燃料)」が高騰し、経営を圧迫するようになった。とりわけ、バイオマス発電所の経営では、経費の8割が「バイオマス燃料費」を占めるため、輸入ペレットの価格高騰のダメージは計り知れない。 ・2026年以降、輸入材を使うバイオマス発電所は「FIT制度の対象外」となった! 2026年度以降、外国から輸入したバイオマス燃料を使う場合には、FIT制度による買取制度が受けられなくなる。その背景には、ベトナムを始めとする一部のペレットメーカーが「FSC認証」を偽造し、粗悪なペレットを日本に輸出してきたことがある。とりわけ、粗悪なペレットによって、国内で爆発事故、火災事故が頻発していることも、輸入ペレットへの信頼性を失墜させる一因となった。現時点で、国産ペレットは輸入ペレットよりも高いため、輸入ペレットの利用によってFIT制度から除外されるとすれば、いよいよバイオマス業界の立て直しは難しい舵取りとなる可能性が高い。 |
出典:バイオマスコラム「【2025年最新】なぜ今、バイオマス発電所が苦境に立たされているのか?」
以上の通り、バイオマス発電業界には、逆風が吹き荒れていることをお伝えしました。
その一方で、SDGs時代の到来を“追い風”に、「バイオマス燃料メーカー」には、明るい光が差し込んでいます。
とりわけ、とある「バイオマス燃料」が脚光を浴びており、何かと話題に上っています。
そのバイオマス燃料とは「ブラックペレット(半炭化バイオマス)」です。
ブラックペレット(半炭化バイオマス)とは、生木や牛糞たい肥などを、加熱・乾燥させて生成する「バイオマス燃料(炭素)」のことです。
ブラックペレット(半炭化バイオマス)というと、何か真新しい新素材なのかと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
ブラックペレット(半炭化バイオマス)は、木質を空気の少ない状態で加熱・乾燥させ、純度を高めた固形“炭素”ですから、地中から採掘される石炭(炭素)と大差ないものです。
出典:株式会社星野環境研究所「バイオマスとは」
とりわけ「“半”炭化バイオマス(ブラックペレット)」は、炭化バイオマスほどの加熱処理を行わないバイオマス燃料を指します。
そのため、比較的「製造コスト」が安価に済むのが、ブラックペレット(半炭化バイオマス)のベネフィットとして注目されています。
さらに、ブラックペレット(半炭化バイオマス)は化石燃料ではなく、カーボンニュートラルなバイオマス燃料を加工したものであるという特性から「化石燃料からの脱却(=脱炭素)」に貢献を図れる点でもベネフィットがあります。
そのため「脱炭素」のミッションを、一気呵成にクリアしたい産業界から、非常に注目されているのです。
一言で言えば、ブラックペレット(半炭化バイオマス)については、今後の「大幅な需要増」が見込まれる、期待の燃料と言って差し支えありません。
私自身、さまざまなカンファレンスに参加するなどして情報収集していますが、製鉄業界を始めとする産業全体で、半炭化バイオマスに“熱視線”が送られていることを肌で感じています。
炭化のプロセスには、それなりのコストがかかり、なおかつ、ムラなく炭化できる技術レベルに達していないなど、広く商用利用できるレベルに至っていないのが現状ではありますが、研究が進めば、広くあまねく利用されるだろうと、僕は期待しています。
「そもそも、半炭化バイオマス(ブラックペレット)とは何かについて、よくわかっていない。詳しい解説を読んで、理解を深めたい」という方は、以下の記事が参考になるかもしれません。
2.製鉄業界では「コークス」の代替燃料として「ブラックペレット」が注目されている!
前項でお伝えしました通り、半炭化バイオマスに注目している業界の一つが「製鉄業界」です。
鉄は、1200度の高温で蒸し焼きにした石炭(コークス)、鉄鉱石、石灰石を高炉で溶錬することで製造されます。
この石炭(コークス)については、燃焼時に二酸化炭素を排出する“悪者”として考えられています。
この“悪者”を、どうにか排除して、脱炭素化を推進したいというのが、製鉄業界の想いです。
そうしたなかで、石炭(コークス)の替わりに「ブラックペレット(半炭化バイオマス)」を用いようというアイデアに、多くの製鉄会社が、並々ならぬ興味を示しているのです。
現時点では、石炭(コークス)から完全に炭化バイオマスに置換する「専焼」は、技術的にもとても難しく、すぐの実現には至らないと思います。
石炭の一部に、ブラックペレット(半炭化バイオマス)を混ぜ込む「混焼(こんしょう)」という方法で「部分的な脱炭素」を図るのが、製鉄業界のやり方となるだろうと、僕は予測しています。
3.火力発電所で「ブラックペレットの混焼実験」が進行中!
ブラックペレットに熱視線を送るのは、製鉄業界だけではありません。
一つは、火力発電所です。
火力発電所では、燃料として石炭(=化石燃料)を用いていますが、その石炭の代わりになるものとして、バイオマスを炭化したブラックペレット(半炭化バイオマス)を活用していこうという動きが活発化しているのです。
例えば、2024年11月15日の「東北電力」のプレスリリースによると、能代火力発電所3号機で、ブラックペレット(半炭化バイオマス)の混焼実験を行い、重量比にして20%の混焼に成功したことが報告されています(出典:東北電力「能代火力発電所3号機においてブラックペレット20%(重量比)の混焼を達成」)。
一方、北陸電力は、2030年までに二酸化炭素の排出量を、2013年度比で半減することを目標としています。
そうしたなかで、北陸電力が管轄する石炭火力発電所では、ブラックペレットを中心に、バイオマス燃料の混焼を拡大する方針を打ち出しています。具体的には、燃料中15%ほどの混焼率を見込んでいるとのことです(出典:メガソーラービジネス「石炭代替のバイオマス燃料、北陸電力やアイシン高丘が活用へ」)。
やはり「専燃(=オールバイオマス)」というのは難しく、「混焼(=一部、バイオマスを混ぜて燃料とする)」の割合を増やしていくというのが、火力発電所におけるバイオマス燃料とのかかわり方になっていくのだろうと思います。
4.バイオマス燃料メーカーは「売り方・売り先」広げてみよう!
バイオマス燃料というと、主には「バイオマス発電所で使う燃料」というイメージが強いです。
ですが、2025年2月の記事「【2025年最新】なぜ今、バイオマス発電所が苦境に立たされているのか?」でお伝えした通り、バイオマス発電所だけを「売り先」と考えては、ビジネスが先細りしてしまう可能性があります。
大切なのは、視野を広げ、売り先を拡大することです。
石炭をはじめとする化石燃料を使っている火力発電所、製鉄業界、ケミカル業界など、あまたある産業界に対して、
「ブラックペレットは化石燃料の代替となるこれからの時代のクリーン燃料」
だという打ち出し方をすれば、バイオマス燃料は、引く手あまたな燃料となるからです。
私は以前、SDGs時代の到来と合わせて、今後、バイオマス燃料の需要増が期待できる業界について考察したコラム記事を配信しました。
バイオマス燃料メーカーは、ブラックペレット化を念頭に置きつつ、コラムで取り上げた産業界にアプローチすれば、販路拡大に成功するはずです。
以下の記事もぜひ、参考にしてみてください。
●参考記事
・セメント業界、ケミカル業界
【専門家コラム】セメント業界・ケミカル業界で「バイオマス」の需要が高まる理由
・製鉄業界、自動車業界、航空業界
【専門家コラム】まだある!バイオマス燃料の需要が“右肩上がり”になる理由
・火力発電所
5.トランプ大統領の「ドリル、ベイビー、ドリル(掘って、掘って、掘りまくれ)」をどう考える?
読者の皆さんのなかには、「アメリカのトランプ大統領は、2026年1月にパリ協定から離脱することを表明している。世界を牛耳るアメリカの動向も踏まえると、脱炭素の動きにストップがかかるのでは?」と思われた方もいるかもしれません。
たしかに、トランプ大統領は「ドリル、ベイビー、ドリル!(掘って、掘って、掘りまくれ!)」を合言葉に、化石燃料を増産し、エネルギー価格を下げることを計画するなど、脱炭素とは真逆のエネルギー政策を掲げています。
しかし、脱炭素に限らず「持続可能な社会を実現しよう!」とのムードは、全世界的なものであり、不可逆的なものです。地球環境に対して、悪いメッセージではないため、そのムードがかき消されるほどのインパクトは生じないものと考えられます。
以前「【専門家コラム】トランプ政権発足後の「エネルギー政策」一体どうなる?
」という記事でもお伝えしましたが、アメリカ国内においても、全州のアメリカ国民が、化石燃料の増産に賛成しているわけではありません。
合衆国の名の通り、州によってエネルギー政策には違いがあり、一枚岩では語れないのが実情なのです。
日本政府も、トランプ大統領のエネルギー政策を気にかけつつも、引き続き「脱炭素」に向けた舵取りを行うことが予想されます。
日本の産業界においても、トランプ大統領のエネルギー政策にかかわらず、「脱炭素」に向けた取り組みを加速させているのは、関係者との会話のなかでも、手に取るように感じられることです。
とはいえ、トランプ大統領のエネルギー政策の動向は、日本にも影響が及ぶ可能性がたかいですから、今後の動向についても、引き続き注視していきたいと思います。
今日はこのへんで筆を置きたいと思います。
また次回のバイオマスコラムでお会いしましょう!