世界中が目指す「脱炭素化」のための手段として、バイオマスの可能性にスポットライトが当てられることが増えてきました。
日夜、報道されるバイオマス関連のニュースの主なトピックスは「バイオマス発電」と「バイオマスプラスチック」です。
とりわけ、バイオマス発電には、大きな期待が持たれています。
太陽光や風力など、“お天気任せの不安定な再生可能エネルギー”と違い、燃料を投下し続ければ、火力発電と同様に、安定的な電力供給が可能な「ベースロード電源」だからです。
さらに現在、日本で稼働中の火力発電所の燃料を、化石燃料からバイオマス燃料に置換すれば、すぐさま「脱炭素化」できます。
言うなれば「再エネのホープ」です。
バイオマス発電は、我が国の再エネ政策の目玉になるべきものなのです。
ところが、現状の電源構成はどうなっているでしょうか?
出典:特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所
「国内の変動性自然エネルギーVREが10%超、急がれる化石燃料への依存度低減」
ご覧いただくとわかる通り、再エネのなかでは「太陽光発電(9.3%)」の半分にも満たないシェア率です。
バイオマス発電のシェア率は、我が国の電源構成の「4.1%」を占めるに過ぎないのです。
「脱炭素化」を推進するうえで、このシェア率は解決したい課題です。
なぜ、このようなことが起きてしまっているのでしょうか?
読者の皆さんは、どのように考察しますか?
1.バイオマス発電が進まない理由とは?
「期待のホープ」にもかかわらず、バイオマス発電のシェア率が上がらない。
そこには、いくつかの理由がありますが、もっとも皆さんに懸念されているのが「発電コスト」ではないかと思います。
インターネット上で「バイオマス発電が普及しない理由」と検索すると「発電コストが高い」という考察が散見されます。
バイオマス燃料の場合、バイオマス燃料の調達にお金がかかるため、太陽光などよりも普及が遅れているという主張なのです。
経済産業省「持続可能な木質バイオマス 令和2年7月20日資源エネルギー庁」
「バイオマス発電は、発電効率が悪く、調達も大変だからやめておこう」と考える人が少なくないのかもしれません。
そうした思考の蔓延が、バイオマス発電の普及を阻んでいる可能性があります。
2.資源エネルギー庁のデータをもとに徹底検証!
しかし、実際に、発電コストが高いのか、検証した有力な記事はほとんどありませんでした。
本記事では、この点について、改めて切り込んでみたいと思います。
そのためには、公的機関が試算したデータをもとに検証するのがベストです。
以下のデータをご覧ください。
こちらは、資源エネルギー庁が発表した「電源別発電コスト」の試算結果です。
電気を作る場合には「安全性・安定供給・経済効率性・環境への適合」の4つのファクターが大切ですが、そのうち、経済効率性について資源エネルギー庁が検証したものです。
電源 | 発電コスト(円/kWh)※()内は政策経費なしの値 | 設備利用率 | 稼働年数 |
石炭火力 | 12.5(12.5) | 70% | 40年 |
LNG火力 | 10.7(10.7) | 70% | 40年 |
原子力 | 11.5~(10.2~) | 70% | 40年 |
石油火力 | 26.7(26.5) | 30% | 40年 |
陸上風力 | 19.8(14.6) | 25.4% | 25年 |
洋上風力 | 30.0(21.1) | 30% | 25年 |
太陽光(事業用) | 12.9(12.0) | 17.2% | 25年 |
太陽光(住宅) | 17.7(17.1) | 13.8% | 25年 |
小水力 | 25.3(22.0) | 60% | 40年 |
中水力 | 10.9(8.7) | 60% | 40年 |
地熱 | 16.7(10.9) | 83% | 40年 |
バイオマス(混焼、5%) | 13.2(12.7) | 70% | 40年 |
バイオマス(専焼) | 29.8(28.1) | 87% | 40年 |
ガス コジェネ | 9.3~10.6(9.3~10.6) | 72.3% | 30年 |
石油 コジェネ | 19.7~24.4(19.7~24.4) | 36% | 30年 |
出典:資源エネルギー庁「電気をつくるには、どんなコストがかかる?」
ここで出てくる「バイオマス(混焼)」とは、バイオマス燃料と、石炭などを同時に燃焼させる方法です。
一方「バイオマス(専燃)」とは、バイオマス燃料のみを燃焼させる方式です。
脱炭素化の理想としては「バイオマス(専燃)」ですが、その場合の発電コストは「29.8円/kWh」となっており、洋上風力発電と同等レベルで高いように見えます。
ここだけ切り取ると、俗に言われている「バイオマス発電は発電コストが高い」という言説には、正当性がありそうです。
3.再生可能エネルギーの評価は「総合的」に見よう
しかし、ちょっと待ってください。
この発電コストには「稼働率」や「稼働年数」が加味されていません。
どんな発電設備も、その稼働率は100%ではありません。お天気任せの再生可能エネルギーの場合、高額な初期投資を行っても「稼働率が著しく低い」といったケースも散見されます。
そのため「稼働率」はチェックしておきたい項目だと言えます。
また、発電設備は決して安くありませんから、一度導入した設備が「どのくらいの期間くらい使えるのか(=稼働年数)」も重要です。
それでは「バイオマス(専燃)」と、その他の「再生可能エネルギー」について、比べてみましょう。
電源 | 発電コスト(円/kWh) | 設備利用率 | 稼働年数 |
陸上風力 | 19.8 | 25.4% | 25年 |
洋上風力 | 30.0 | 30% | 25年 |
太陽光(事業用) | 12.9 | 17.2% | 25年 |
中水力 | 10.9 | 60% | 40年 |
地熱 | 16.7 | 83% | 40年 |
バイオマス(専焼) | 29.8 | 87% | 40年 |
最も発電コストが安いのは「太陽光(事業用)」です。
ですが、その設備利用率(稼働率)は、17.2%にすぎず、設備の稼働年数も25年と短いです。
何かと太陽光発電は話題になることが多いですが、設備投資回収効率は決して高くないのです。
昨今、急激にフィーチャーされている「風力発電」も発電コストという観点での評価は△です。
陸上風力、洋上風力ともに、ベースの発電コストが高いうえ、設備利用率は25~30%程度で、さらに稼働年数も25年ほどだからです。
一方、中規模の水力発電と地熱発電は、発電コストが安く、稼働率、稼働年数ともに優秀です。
ただし、水力発電は、降水量に左右されるお天気任せの再生可能エネルギーなため、安定供給(ベースロード電源化)が期待できません。
一方、地熱発電はベースロード電源化が可能な発電方法ですが、地熱資源は、目に見えない地下資源です。
今後の拡充にあたっての「開発リスク」と「開発コスト」が高いことが、資源エネルギー庁によって指摘されています。
さらに、地熱発電の適地は「九州・東北の火山地帯」に偏在しており、非常に限定的です。
規模化がむずかしいことが問題点として挙がっているのです。
出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに向けた地熱をとりまく現状について 令和2年12月7日資源エネルギー庁」
一方「バイオマス(専燃)」はどうでしょうか?
発電コストは、バイオマス燃料の調達にかかる経費が上乗せされることから、洋上風力と同等レベルに高いです。
しかし、利用率は87%、設備の稼働年数は40年ということで、非常に優秀です。
さらに、国内の電源構成の70%を占める火力発電の燃料を、バイオマス燃料にスイッチングするだけで「脱炭素化」が実現できます。
設備投資にかかる初期費用を抑えられ、非常に簡単に脱炭素化を実現できる点でも、非常に魅力的だと言えます。
つまり、バイオマス発電は「脱炭素化の推進」のツールとしては非常に魅力的ですが、普及するかどうかは、
「バイオマス燃料が安価に調達できるか」
にかかっていると考えられるでしょう。
4.バイオマス燃料の調達コストを下げる秘策がある!
バイオマス燃料を安価に調達する方法。
皆さんは、どんな方法があると思いますか?
少し考えてみてください。
さまざまなアイデアがあると思いますが、私は「国産材の利活用」が大きなカギになると考えています。
現在では、バイオマス燃料の40%が「輸入材」ですが、それを100%国産材に置き換えるのです。
さらに、林地の所有権に関する問題を解決し、ハイパフォーマンスな伐採機器を導入して国内の林業の「効率化」を推進し、耕作放棄地への早生樹エネルギー植林を実施すれば、バイオマス燃料の大幅な「低コスト化」が実現します。
これが、私の考える「バイオマス国産化計画」です。
バイオマス燃料の価格半減を実現する「バイオマス国産化計画」 |
1.輸入材を撤廃し「100%国産材」由来のバイオマス燃料を活用・輸出する 2.林地の所有権に関する問題を解決する 3.ハイパフォーマンスな伐採機器の導入で国内の林業の「効率化」を推進する 4.耕作放棄地への早生樹エネルギー植林を行う |
これらが実現すれば、日本は驚くほど早く「脱炭素化」を実現できます。
それが、バイオマス発電を導入する最大のベネフィットです。
今の時点では「バイオマス国産化計画」と言ってもよくわからず、クエスチョンマークだらけだと思います。
この提言が一体どういうものなのか、その内容にどうして正当性があるのかについては、来月のバイオマスコラムで詳しくお届けしたいと思います。お楽しみに!