「炭化バイオマス」とは、生木や牛糞たい肥などを「加熱・乾燥(=炭化処理)」して、生成する「高純度のバイオマス燃料(固形炭素)」のことです。
バイオマス発電所で用いる「バイオマス燃料」の一種として、大きな注目を集めているものです。
一方、「半炭化バイオマス」とは、炭化バイオマスほど、加熱処理を加えない炭のことです。炭化バイオマスの半分くらいの加熱処理を加えることで「半炭化バイオマス」を製造します。
本記事では「話題のバイオマス燃料」の一つとして「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」を詳しく解説します。
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」を導入することで得られるメリットのほか、「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の使い分け方などに、どこの記事にも取り上げられていない「独自情報」を、バイオマスの専門家・草野が、解説します。
本記事を読むことで「バイオマス発電所の収益性をアップするヒント」が得られます。
「バイオマス発電所の収益性を向上させたい!」
「バイオマス発電所の収益性を高めるためにいい『燃料は何か』が知りたい」
「バイオマス発電所で『安定経営』を実現させたい」
といった思いがある方にとって、参考になる記事です。
それではさっそく、みていきましょう。
目次
1.「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の定義
「炭化バイオマス」の定義は「【解説】炭化バイオマスとは?活用するメリット・注意点について」でもお伝えしていますが、以下の通りです。
炭化バイオマスとは? |
「炭化バイオマス」とは、生木や牛糞たい肥などを「加熱・乾燥(=炭化処理)」して、生成する「高純度のバイオマス燃料(固形炭素)」のこと |
簡単に言い換えれば「炭化バイオマス」は「石炭(高火力の備長炭)」です。
以下は、炭化バイオマスの実物です。
この写真は「牛糞たい肥」を炭化処理したものですが、生木を加熱処理して生成された「炭」状のものが、広く知られています。
出典:株式会社星野環境研究所「バイオマスとは」
一方「半炭化バイオマス」とは、炭化バイオマスほど、熱処理を加えない石炭のことです。
炭化バイオマスの「半分くらいの加熱処理」を加えることで「半炭化バイオマス」を製造しています。炭化バイオマスは、炭になるまで熱処理を加えますが、半炭化バイオマスは、その処理を途中で中止するイメージです。
従って、「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の違いは「熱処理」を与える量ということになります。
炭化バイオマスも半炭化バイオマスも、密閉した窯を「無酸素状態」にしたうえで、外部から「高温の熱」を加えることで製造します。
炭化バイオマスとについて「より詳しく知りたい!」という方は以下もチェック |
【解説】炭化バイオマスとは?活用するメリット・注意点について |
2.「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」を導入する3つのメリット
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」は、バイオマス発電所への導入が期待されている「話題のバイオマス燃料」です。
注目されている理由は、主に3つあります。
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」を導入する3つのメリット |
①熱量(kcal)がアップするため「輸送費の削減」につながる ②屋外貯蔵が可能になるため「設備投資費」を軽減できる ③「粉塵爆発」のリスクを低減できる |
一つずつ、みていきましょう。
①熱量(kcal)がアップするため「購入量」と「輸送費」の削減につながる
もっとも、大きなメリットが「熱量(kcal)アップによる『購入量』と『輸送コストの削減』」です。
まず、炭化処理を施すことで、炭化バイオマス/半炭化バイオマスは、熱量がアップします。具体的には以下の通りです。
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」の熱量(1kgあたり) |
・通常の木質チップ(生木を砕いたもの/水分含有量が「50%程度」の場合):2000kcal ・通常の木質チップ(生木を砕いたもの/水分含有量が「10%以下の場合):4000kcal ・半炭化バイオマス:4500~4700kcal ・炭化バイオマス:6000kcal |
「炭化への加工プロセス」に、費用はかかるものの、同じ重量で比較した場合「g/kcal(=容量あたりの熱量)」が高まります。
そのため、未加工の木質ペレットと比較した場合「必要な絶対量」を削減することができます。
バイオマス燃料の場合、kcal数での購入になりますが「必要な購入量」が減ることで「輸送コスト」の削減にもつながります。
炭化バイオマスにするだけで「一石二鳥」というわけです。
上記の通り、バイオマス発電所における経費の大部分を占める「燃料関連費」の削減につながるため、収益性の向上につながるというわけです。
それが、炭化バイオマス/半炭化バイオマスを導入すべき最大のメリットです。
②屋外貯蔵が可能になるため「設備投資費」を軽減できる
もう一つのメリットが「屋外貯蔵が可能になることによる『設備投資費』の軽減」です。
炭化バイオマスは、加工プロセスで、「防水性」を備えるようになります。
半炭化の場合にも、条件次第ではありますが「耐水性」が備わります。
そのため、石炭のように「戸外貯蔵」が可能になります。
一般的な「木質ペレット」の場合、屋根付きの倉庫やサイロでの保管が必要になるため、膨大なコストが発生しますが「倉庫建設」が不要になるため、設備投資費を最小限に抑えることができます。
「設備投資費」を軽減できる点で、バイオマス発電所の収益性の向上に貢献すると考えられます。
③「粉塵爆発」のリスクを低減できる
炭化バイオマス/半炭化バイオマスは「粉塵爆発」のリスクを低減できる点でも、歓迎される燃料です。
「粉塵爆発」とは、大気中に浮遊した粉塵に、着火することで、爆発を起こす現象のことです。一瞬にして、建物の倒壊や負傷者を招く恐ろしい現象として知られています。
とりわけ、炭化処理をほどこさないバイオマス燃料(例:木質ペレットなど)の場合、港での積み込み、海上輸送中、荷揚げ、サイロや倉庫への保管作業、横持作業などを繰り返すと、簡単に「粉化」します。
粉化したバイオマス燃料には「粉塵爆発」のリスクがあります。
昨今では、台湾のテーマパークで発生した「粉塵爆発事故」が広く知られています。
この事故では、可燃性物質を含むカラーパウダーを用いたことが原因で、約500名の負傷者と、15名の死者を出しました。
過去には、欧州で、粉塵爆発事故が多発していたこともありました。
一方、炭化したバイオマス燃料は、粉化しづらくなるため、粉塵爆発のリスクを低減できることが知られています。
「安全対策」の側面からも、炭化バイオマス/半炭化バイオマスは歓迎されるものなのです。
以上3点が、「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」を導入するメリットです。
3.「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の使い分け方とは?
「『炭化バイオマス/半炭化バイオマス』の導入メリットは理解できた。でも、それぞれ、どうやって使い分けるんだろう?『炭化バイオマス』の方が、熱量(kcal)が高いため、導入メリットが大きいのでは?」
こんな疑問を抱いた方もいるかもしれません。
結論をいえば、バイオマス発電所が求める「スペック」に基づいて、「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」を使い分けます。
例えば、「半炭化で十分使用目的が果たせる」という場合には、半炭化で問題ありません。炭化と半炭化では炭化の方が加熱時間が長いため「加工処理コスト」が高くつくからです。
また、他の燃料との相性(整合性)によっては「半炭化バイオマス」の方が望ましい場合があります。
例えば、大型石炭火力で使われている「微粉炭ボイラー」でバイオマス燃料の一つである「PKS」を用いる場合。
硬すぎて、「微粉炭機」で粉砕できません。
しかし、PKSを半炭化すると「微粉炭機での粉砕が可能」になります。
「微粉炭機で粉砕可能な程度に炭化すれば十分」と考えた場合、「半炭化PKS」でよいわけです。そのほうが、加工度が低い分、低コストで済むからです。
このケースでは「半炭化バイオマス」に加工することが考えられます。
一方、製鉄会社では、溶鉱炉の還元剤として使われているコークス(石炭を蒸し焼きにして製造する)を、バイオマスに置き換えて「再エネ化」することを検討していますが、「より石炭に近い熱量」が求められています。
そのため、こちらのケースでは、半炭化バイオマスではなく「炭化バイオマス」が求められます。
このようにユーザーの「利用目的」に応じて、炭化度を調整することになります。
これが炭化バイオマスと半炭化バイオマスの使い分け方です。
4.「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」の入手方法は?
これまでの記事を通して
「炭化バイオマスを利用してみたい。どこで手に入るだろう?」
といった疑問をいただいた方もいらっしゃるかもしれませんね。
結論をいえば、「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」については、まだ開発途上であり「商業生産」に成功しているものはありません。
実証プラントでの製造に成功しているものの「商業化」を踏まえた製造技術の確立には至っていないのが現状です。
具体的には、以下のような問題が立ちはだかっています。
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」の商業化に立ちふさがる問題点 |
・ペレットを均一に「炭化」できない(炭化に「ムラ」ができてしまう) ・「炭化」「半炭化」のコストの方が高いのが現状 |
こういった問題が解消できれば、バイオマス発電所に「炭化設備を付加する」だけで、炭化バイオマスの製造が可能になることが、予想されています。
均一にムラなく炭化できる技術が確立されることを願うばかりです。
「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」の製造方法は? |
炭化バイオマスを製造する方法は、大きく分けて3つあります。 いずれかの方法を用いて、炭化バイオマス/半炭化バイオマスを製造します。 ①原料 → ペレットに加工 → 炭化処理 → 炭化バイオマス ②原料 →炭化処理 → ペレットに加工 → 炭化バイオマス ③原料 →炭化処理 → ブリケットに加工 → 炭化バイオマス 上記のうち「ブリケット加工」とは、50㎜前後のかたまり状に押し固める加工方法です。この加工方法の場合、木質ペレットよりも、容積あたりの「密度」が高まります。 <かさ比重の比較> ・通常の木質ペレット:0.7(水の1.0よりも軽い) ・ブリケット加工した燃料:1.0以上(水の1.0よりも重い) 一度に運べる燃料の重量が増えるため、重量あたりの「輸送コスト」を大幅に削減できます。 ブリケット加工には、そのほかにも、以下のようなメリットがあります。 <ブリケット加工を施す2つのメリット> ①木質ペレットよりもかさばらないため、ベルトコンベアやボイラーまで燃料を送り込むシステムのコストを軽減できる ②木質ペレットよりも「粉塵爆発」のリスクが低い 従って、ブリケット加工は、バイオマス燃料メーカーの「市場競争力を高められる加工方法」だといえます。 |
5.まとめ
いかがでしたか。
今、バイオマス発電所業界で、期待されている新燃料「炭化バイオマス」「半炭化バイオマス」について、理解が深まりましたでしょうか。
ここで、本記事の内容を整理します。
●「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の定義
・炭化バイオマスの定義
「炭化バイオマス」とは、生木や牛糞たい肥などを「加熱・乾燥(=炭化処理)」して、生成する「高純度のバイオマス燃料(固形炭素)」のこと
・半炭化バイオマスの定義
炭化バイオマスほど、熱処理を加えない炭のこと
●「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」を導入する3つのメリット
①熱量(kcal)がアップするため「購入量」と「輸送費」の削減につながる
②屋外貯蔵が可能になるため「設備投資費」を軽減できる
③「粉塵爆発」のリスクを低減できる
●「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」の使い分け方とは?
バイオマス発電所が求める「スペック」に基づいて、「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」を使い分ける
●「炭化バイオマス/半炭化バイオマス」の入手方法は?
まだ開発途上であり「商業生産」に成功しているものはないため、現時点で、入手先はない
本記事が「炭化バイオマス」と「半炭化バイオマス」について知りたい方の参考になりましたら幸いです。