バイオコークスとは
製鉄や鋳造など高温の熱エネルギーを必要とする鉄鋼業では、「石炭コークス」が燃料として使われています。「コークス」とは石炭を蒸し焼きにして抽出した炭素の塊(多孔質=小さな穴がたくさん空いた状態の固体)です。石炭よりも固く、高温でも溶けたり崩れたりしにくいため鉄鋼業や鋳物業などで大量に使われています。現在は、石炭コークスの大部分を輸入に頼っています。その代替として期待されているのが、「バイオコークス」です。
いいこと尽くめの夢のバイオマス燃料
●少量で大きな発熱量を持ち、長時間安定した燃焼を行うことができる ●どのようなバイオマスも、事前に乾燥・粉砕をすれば原料として利用できる ※これまでの実証実験で、木くず、樹皮、茶殻、コーヒーかす、もみ殻、そば殻、りんごやバナナの皮、焼酎かす、おから、葦などが利用可能であることがわかっている ●原料によるバイオコークスの性能の差はほとんどない ●原料を100%活用できる=灰などの廃棄物もゼロ(ゼロ・エミッション) |
開発したのは、近畿大学理工学部の井田民男准教授です。石炭をバイオマスに置き換えた(バイオマスから製造した)バイオコークスは、次のような多くのメリットを持ちます。
約180度の過熱で高密度・高硬度に成功
バイオコークスは、粉砕した原料バイオマスをシリンダーの中に充填、10トン以上の圧力をかけて硬度を高めつつ加熱と冷却を加えて生成します。ポイントは、加熱温度です。高すぎると炭になり、低いとペレットになるからです。井田准教授が見つけ出した最適加熱温度は約180℃。これによって、高密度・高硬度のバイオコークスが誕生しました。
バイオコークスは1,300~1,500℃の高温でも強度を維持して形状を保ちます。溶解炉メーカーの研究所と共同で行った実証実験では、小型鋳造炉で石炭コークスの約40%をバイオコークスに置き換えても、鉄を溶かす熱量と熱効率が変わらないことがわかりました。
また、近畿大の大型鋳造炉による石炭コークスとの混焼実験の結果では、炉内温度は石炭だけの時より高温となり、不純物の混入も起きないことが確認されたそうです。
実用化に向けたさまざまな国内実証実験
現在、さまざまなバイオコークスの実用化、工業化に向けたプロジェクトが試みられています。
2010年からは近畿大学とイオンアグリ創造が、北海道恵庭市の同大バイオコークス研究所の農地にて、バイオコークスを利用したハウス加温栽培の研究に取り組んでいます。また、同大と大阪ガスエンジニアリングが、2014年3月にはマレーシアでパームヤシ由来のバイオマスを原料としたバイオコークスの製造の実証実験を開始しました(科学技術振興機構が実施する「産学共同実用化開発事業」)。
秋田県横手市では、同市森林組合が提供するスギ間伐材を原料とするバイオコークスを製造しています。その工程で発生するガスで発動機を動かして電気と熱水を生み出すという「一石三鳥方式」を全国で初めて採用、2013年5月から稼働しています。
大阪府森林組合が建設した、間伐材などの木質バイオマスを原料にバイオコークスを製造する拠点「大阪府森林組合高槻バイオコークス加工場」(大阪府高槻市中畑)は、世界初の商用(実用)バイオコークス製造プラントです。生産能力は年間1,800トン、2011年6月より稼働開始しており、ここで生産されたバイオコークスは株式会社豊田自動織機の知多工場へ供給され鋳造炉の燃料として利用されています。
珈琲かす原料バイオコークスで焙煎珈琲
コーヒー業界は、地球温暖化などの気候変動の影響でコーヒー豆の生産量が激減(コーヒー豆の生産に適した土地が半減)する「2050年問題」に直面しています。その解決の一助としてコーヒー豆かすを原料とした「バイオコークス」を製造、それを燃料に焙煎したドリップバッグコーヒーを近畿大学と石光商事(神戸市)が共同開発しました。原料のコーヒー豆かすは、石光商事が提携する抽出工場から出たもの。2020年現在、コーヒーの抽出カスより生産したバイオコークスで焙煎したコーヒー豆、およびその焙煎方法は、特許申請中となっています。
課題は、生産コストとエネルギー効率
製造方法はほぼ確立されたバイオコークスですが、問題は、生産コストの低減とエネルギー効率の向上です。原料調達にかかる輸送費、粉砕費、乾燥費がかさむと採算の確保が難しく なり、輸入石炭コークスの低価格にはまだ及びません。
現状では、石炭コークスの代替としてのバイオコークスの量は炉によって異なります。井田教授によれば、100%代替を実現するには、バイオコークスの性能向上と同時にバイオコークスに適した炉の開発が重要になってくるとのこと。
さらに、製造時のCO2の排出などライフサイクルGHGも考慮するとなると、今後はバイオコークスの原料に水分量の少ない木質バイオマスなどを使用するなどの工夫も必要となってくることが考えられます。