【専門家コラム】まだある!バイオマス燃料の需要が“右肩上がり”になる理由

バイオマスコラム

1.製鉄の「コークス」は「バイオマス燃料」への置換で「カーボンニュートラル」を実現できるから

以前「【専門家コラム】『バイオマス燃料』の需要は“うなぎ上りに上昇”の可能性あり!」という記事をアップしました。

このとき、以下の3点についてお伝えしました。

・火力発電所で使用されている燃料の「石炭」は、温暖化の一因になっている
・この石炭燃料は「バイオマス燃料」への代替が可能!
・バイオマス燃料への置換で「脱炭素化+カーボンニュートラル」を実現できる

とりわけ、全世界で使用されている石炭の「約半分」は、火力発電所で消費されていることから、バイオマス燃料の需要が増える可能性があるのが最大のポイントです。

このように、火力発電所において「バイオマス燃料」の需要が拡大する可能性があるわけですが、バイオマス燃料の需要が拡大する要因は、それだけではありません。

バイオマス燃料の“潜在顧客”が、ほかにもいるのです。

それは「鉄鋼業界」です。

なぜならば、鉄の製造には「コークス(石炭)」が必要不可欠だからです。

コークスとは、石炭を1200℃の高温で「蒸し焼き」にすることで、発熱量をアップさせたものです。

鉄は、コークス・鉄鉱石・石灰石を「高炉(こうろ)」のなかで溶錬することで製造されます。

●高炉とは?製鉄用の溶鉱炉。高さのある円筒形の炉で、上部から原料鉱石とコークス・石灰石を入れて溶錬し、下方にたまった銑鉄 (せんてつ) を取り出す。

出典:goo辞書

出典:goo辞書

従って「コークス」は鉄の原料の一つであり、欠かせないものです。

しかし、コークスはあくまで「石炭」なため、燃焼時に二酸化炭素を排出します。

SDGs時代においては、二酸化炭素を始めとする温室効果ガスは「悪者」ですから、製鉄業界の皆さんは、これをどうにかしたいと考えているはずです。

その際、役立つのが「バイオマス」です。なぜならば「コークス」は「バイオマス」に置換できるからです。

コークスの原料である炭は、太古の植物が地中に埋まり、無酸素状態に置かれ、地熱などの影響で蒸し焼きにされたものです。

そのため、植物を原料としたバイオマス燃料を蒸し焼きにして(=炭化して)発熱量を高めれば、コークスの代替品として使えるというわけです。

鉄鋼業界で、コークスの代替品として「バイオマス」が使えるアイデアが広がれば、バイオマス燃料の需要が右肩上がりになるでしょう。

これが、バイオマス燃料の需要が拡大するだろうという予測の根拠です。

これが実現できたら画期的です。バイオマス燃料の置換によって「脱炭素化」と「カーボンニュートラル」を一挙に実現できるからです。

とりわけ、日本政府は「高炉などの一般産業も二酸化炭素の排出削減の例外ではない」と話しているのは注目すべきことです。

いずれにせよ、石炭と密接に関わる産業の「グリーン化」は不可逆な流れです。

今後とも、さまざまなテクノロジーを用いて「脱炭素化」や「カーボンニュートラル化」が図られていくだろうと思います。

その一つの手法として「コークス→バイオマス燃料への置換」は有用なアイデアだと考えられます。

2.「ガソリン」は「SAF」への置換で「カーボンニュートラル」を実現できるから

今後、バイオマス燃料の需要拡大が予想される業界はほかにもあります。それは、自動車や航空機などの「輸送業界」です。

一つずつ、順を追って説明します。

まず大前提として、ご存じの方も多いですが、輸送業界においても「グリーン化」が強力に推進されています。

なぜならば、運輸部門における二酸化炭素の排出量は、総排出量の「17.7%」を占めており、無視できない割合に達しているからです。

例えば、我が国においては、1年間で「1億8500万トン」もの二酸化炭素を排出していることがわかっています(国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」)。

そのため、自動車で用いる「ガソリン(原油)」や、航空機で使用する「ジェット 燃料」など、化石燃料を原料とした「液体燃料」のグリーン化が急務となっています。

そうしたなかで、バイオマス燃料(植物)の活用が注目されつつあるのです。

自動車業界と航空業界に分けて、一つずつ、見ていきましょう。

●自動車業界の動向

まず、自動車業界の動向について解説します。

言うまでもないことですが、自動車業界では、長らく「ガソリン車」が主流でした。

しかし、エンジン内でガソリンを燃焼させる際に、温室効果ガスが排出されます。

そのため、現在では「ガソリン車」から「EV(電気自動車)」への置換が、世界の潮流になっています。

EVと言えば、イーロン・マスク氏率いる「テスラ」が有名ですね。

とりわけ、2035年以降は、欧米だけでなく日本においても、ガソリン車の新車販売を禁止することが決定しています。

とはいえ、ガソリンの使用がゼロになるわけではありません。

2035年以降に販売してよい車は「EV(電気自動車)」「FCV(燃料電池車)」に加えて「HV(ハイブリッド)」「PHV(プラグインハイブリッド)」の4タイプだからです。

「HV(ハイブリッド)」と「PHV(プラグインハイブリッド)」は、それぞれ、次のような特徴があります。

・HV(ハイブリッド):ガソリンエンジンと電気モーターを搭載している/充電できるバッテリー付き
・PHV(プラグインハイブリッド):HV(ハイブリッド)同様、ガソリンエンジンと電気モーターを搭載しているが、主な動力源は「ガソリン」/エンジンやブレーキで充電されるバッテリー付き

つまり、2035年以降の新車販売では、ガソリンオンリーの新車を販売することは禁止されるものの、ハイブリッド車は存続するということです。

従って、私たちは、引き続き「ガソリンの燃焼で生じる温室効果ガスの問題」について、解決策を示さなくてはなりません。

つまり、低コストに再生可能エネルギーからガソリンを作るという命題が横たわっているというわけです。

具体的には、バイオマス(植物)から製造された“バイオマスガソリン”を生み出すことが求められています。

現時点では、アメリカに目立った動きが見られます。

アメリカのバイデン政権は、2022年にバイオエタノールを15%混合したガソリンを販売することを許可しました。

これはまぎれもなく、脱炭素化に向けた政策の一つです。

一方、ブラジルでも、バイオエタノールを20数%混合したガソリンが実用化されています。

日本では、ユーグレナといすゞ自動車が共同開発したバイオディーゼル燃料が有名です。

これは微生物の「ミドリムシ」が原料という、驚くべき燃料です。

このミドリムシ燃料ですが、性能試験においては「軽油と同等の性能」があることが確認されています。つまり、普通に使える燃料ということです。

以上の通り、2035年までに「新車はEVのみ」という大きな流れのなかでも、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車などは販売されますし、世界各国が、ガソリンの「バイオマス(植物)化」に励んでいることがわかります。

このようななかで、バイオマスの需要が拡大していくものと推測できます。

●航空機業界の動向

一方、航空機業界の動向はどうなっているのでしょうか?

先に結論を言えば、航空機のジェット燃料も「バイオマス化」が推進されています。

というのも、世界的な航空・運送組織である「国際航空運送協会(IATA)」が、2050年までに航空業界から排出される二酸化炭素を「実質ゼロ」にするという目標を掲げたからです。

出典:日本経済新聞「50年に温暖化ガス排出ゼロ、IATAが表明 環境燃料拡大

これまで続いてきた「化石燃料由来のジェット燃料からの脱却(=脱炭素化)」と「SAF(持続可能なジェット燃料)(※)」への切り替えを促すもので、とてもエポックメーキングな宣言だったと言えるでしょう。

国際航空運送協会(IATA)は4日に開いた年次総会で、2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする目標を賛成多数で採択した。石油由来の従来のジェット燃料から、バイオ原料などを使った持続可能な航空燃料(SAF)への切り替えを加速し、エネルギー業界や各国政府との連携も模索する。

出典:日本経済新聞「50年に温暖化ガス排出ゼロ、IATAが表明 環境燃料拡大

※SAFとは:食用油の廃油(天ぷら油など)・動物の脂などの廃棄物や廃材など、持続可能な原料を用いたジェット燃料のこと

当然のことですが、この問題は、日本の航空業界も看過できません。

2021年12月に国道交通省が、2030年までに国内の航空機が使用する燃料の10%をSAFに置き換えるという目標を立てています。

しかし、日本はもとより世界においても、化石燃料からSAFへの移行は、ほとんど進んでいないのが実情です。

IATAは、航空業界へのSAFの供給量は、2022年の3億リットルから2023年にかけて2倍となる6億リットルになったことを報告しています。そして、2024年には3倍になる18億リットルの供給が予想されていますが、それは航空業界の必要量の「0.53%」しかカバーできていないと述べています(TRAICY「2023年のSAF生産量は6億リットル、前年比2倍 24年には18億リットル超」)。

つまり「焼石に水」と言ってもよいくらいの状況なのです。

こうしたなかで「石油燃料からSAFへの置換」を進める救世主となりうるのが「農業残渣バイオマス」です。

農業残渣バイオマスとは、アーモンドの殻、PKS(パームヤシの殻)、EFB(パームヤシ果実房)、ココナッツの殻、カシューナッツの殻など、農場において、使い道がなく廃棄される予定の廃棄物が原料のバイオマス燃料のことです。

「農業残渣バイオマス」の原料
・PKS(パームヤシの殻)
・EFB(パームヤシ果実房)
・ココナッツ殻
・カシューナッツ殻
・くるみ殻
・アーモンド殻
・ピスタチオ殻
・ひまわり種殻
・コーンストローペレット
・ベンコワン種子
・サトウキビ茎葉
・ピーナッツ殻
・カシューナッツ殻油
・稲わら/麦わら(※食用を除く)
・もみ殻(※食用を除く)

一般的なSAFは、廃棄された食用油などを原料にしていますが、得られる量はわずかです。

しかし、これらの農業残渣物は賦存量が多く、世界中、どこからでも大量に入手できるのが最大のメリットです。

原価がゼロなのも嬉しいポイントですね。

より多く、安定的にSAFを製造するならば、世界中の工場などから排出される農業残渣物を回収した方が効率がよいです。また、林業で生じる「端材」を回収するのもグッドアイデアでしょう。

以上の通り、私はSAFの推進には「農業残渣物」を始め、捨てられる予定の「端材」などのバイオマス資源を活用するのが良いと考えています。

「SAFにはバイオマスを活用しよう」という考えが広まれば、バイオマスのニーズは今以上に高まることでしょう。

SDGs時代、バイオマスには、大きなビジネスチャンスが眠っていると、私は考えています。

これも、バイオマス(燃料)の需要が“右肩上がり”になるという予測を裏付ける理由の一つです。

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