・なぜ「脱炭素化」が注目されるようになったのか?
近年、SDGs、ESG経営、地球温暖化防止などが脚光を浴びており、化石燃料は「地球温暖化の“元凶”」とみなされています。
そして、日本の産業界全体が「一日も早く脱炭素化しなければ!」と追い込まれています。
このようなムードになったのは、この2~3年のことです。
実は、5年ほど前までは「脱炭素化? まだ当社には早いよ」と、経営層が手をこまねいていました。
しかし、この2~3年で、経営層から「脱炭素に取り組め」と発破がかかり、現場がアタフタしているのが実情なのです。
背景には、2020年に菅総理によって公布された「脱炭素宣言」があります。
この宣言では、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという大きな目標が掲げられました。
さらにその道筋として、2030年に温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減することも公約されました。
これらは、我が国の「国際公約」ですから、政府としては産業界に絶対に守ってもらわなければなりません。
こうしたなかで、化石燃料が“悪者”にされ、SDGsやESG経営が重視され、脱炭素化が声高に叫ばれるようになったのです。
・「脱炭素化」推進のために押さえておきたい“2つの絶対条件”
「脱炭素化」は、絶対に果たさなければならない“至上命令”です。
当然、大量の温室効果ガスを排出し続けている「発電業界」も、脱炭素化に向けて前進しなければなりません。
そうしたなかで、発電業界は、いかにして「脱炭素化」に向けて、舵を切ればよいのでしょうか?
さまざまな考えがあると思いますが、大前提として「再生可能エネルギー」の活用・推進が絶対条件になると思います。
つまり、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電など、温室効果ガスを増やさない発電所の拡充が「脱炭素化の基本方針」となるということです。
さらに、抜本的な脱炭素化を図るならば、火力発電に代わる「ベースロード電源の確保」も視野に入れるべきです。
ベースロード電源とは、火力発電のように、常時安定稼働が可能な電力のことです。
つまり、現在では、化石燃料を用いた火力発電が70%以上を占めていますが、この発電方法に代わる発電方法に置換すべきだということです。
「脱炭素化」推進のために押さえておきたい“2つの絶対条件” |
1.「再生可能エネルギー」の活用・推進 2.火力発電に代わる「ベースロード電源」を確保する |
・脱炭素化のために「バイオマス発電」を拡充すべき2つの理由
これら2つの前提条件を踏まえたうえで、どのような発電方法が「脱炭素化」の切り札になるでしょうか?
さまざまなアイデアがあると思いますが、私個人の意見としては「バイオマス発電」がもっとも抜本的かつ合理的な「脱炭素化の切り札」になるだろうと考えています。
大きく分けて2つの理由があります。
脱炭素化のために「バイオマス発電」を拡充すべき2つの理由 |
・理由①:バイオマス発電は80%~100%に近い稼働率が期待できるから ・理由②:バイオマス発電は既存の火力発電所の化石燃料を「バイオマス燃料」に置換するだけでスタートできるから |
・理由①:バイオマス発電は80%~100%に近い稼働率が期待できるから
最大の理由は、バイオマス発電は、80%以上~100%に近い稼働率が期待できるからです。
一方、太陽光発電も風力発電も「お天気任せ」な発電方法です。
電力供給量が安定しない発電方法なため、抜本的な「脱炭素化」を図りづらい発電方法です。
以上の理由から、バイオマス発電を推進すべきだと考えています。
詳しく見ていきましょう。
・太陽光発電は「フル稼働できない」
例えば、100MW(メガワット)の発電所があるとしましょう。
この発電所を1年間・8760時間フル稼働させたら、理論上は87万6000MWhの電力を作り出せます。
これは、22万6000世帯の年間電力をまかなえる供給量です。
このとき、
「最近は太陽光発電をよく聞くし、100MWの太陽光発電所を作ったらいいのでは?」
と考える人がいるかもしれませんが、とても危険な考えです。
なぜならば、太陽光は夜間に発電できませんし、曇天や雨天の日にも発電できないからです。
太陽光発電の稼働能力は、発電能力に対して「20~30%程度」だと言われています。
それは、ずっと晴れなわけではなく、曇りや雨などの悪天候に見舞われることがあるからです。
さらに台風など、非常に強い風邪が吹き付けると、設備が壊れる恐れがあるため、意図的に稼働停止にすることがあります。
仮に100MWの太陽光発電所があっても、実際には20~30MW程度しか発電できなければ、5万6500世帯くらいの供給量にしかなりません。
「脱炭素化」の切り札に、太陽光発電を推進しようものなら、途方もない時間がかかってしまうでしょう。
設備に対する初期投資も含めて考えると、あまり現実的ではありません。
・風力発電も「フル稼働できない」
風力発電も太陽光発電と同様に、安定した発電量の確保が難しい発電方法です。
なぜならば、風力発電は、風が吹けば発電できますが、吹かなければ発電できないからです。
まさに“風まかせ”です。フル稼働など、夢にも期待できません。
風力発電は太陽光発電と同じく、稼働率が「20~30%程度」だと言われています。
つまり、大規模な発電所を設置しても、相応の稼働力を発揮できないため、投資対効果が得られにくいのが難点です。
この点は、風力発電も太陽光発電も同じです。
以上の理由から、脚光を浴びている太陽光も風力も、ベースロード電源化するのは難しく、脱炭素化の切り札にはなりにくい発電方法だと考えられます。
・バイオマス発電は「フル稼働できる」!
一方、バイオマス発電は大きく異なります。
バイオマス発電の場合、100MWの発電能力がある設備であれば100MW相当の発電が可能となります。
バイオマス発電は、天気に左右されず、24時間の連続運転(フル稼働)が可能な発電方法だからです。
仮に、年に1度の定期点検や計画外停止などがあっても、80%以上の発電はできるはずです。
さらに、バイオ燃料の投下量を減らせば、発電量も自由に調整できます。
例えば夜間など、それほど電力の需要が多くない時間帯は、バイオ燃料の投下を抑えれば、作った電力をムダにしないで済みます。
このように、需要(ニーズ)に合わせて、自由自在に発電量を調整できるのがバイオマス発電です。
まさに「ベースロード電源」としてふさわしい性能を備えています。だからこそ、バイオマス発電を推進すべきなのです。
以上の通り、再生可能エネルギーのなかでは、ベースロード電源化の期待を持てるのは、太陽光・風力ではなく、バイオマス発電です。
・理由②:バイオマス発電は既存の火力発電所の化石燃料を「バイオマス燃料」に置換するだけでスタートできるから
脱炭素化に向けて、バイオマス発電を拡充すべき理由がもう一つあります。
それは、バイオマス発電は火力発電所の燃料を「化石燃料」から「バイオマス燃料」に置換するだけですぐにスタートできる一方、太陽光・風力は設置場所が限られており、初期投資も膨大だという点が挙げられます。
どういうことなのか、一つずつみていきましょう。
・平地が3%しかない日本は「太陽発電所」の設置に向かない
まず、太陽光発電について考えたいと思います。
例えばレノバでは、岩手県軽米西に48MWの発電能力がある太陽光発電所があります。
この規模の発電所の場合、必要な太陽光パネルの敷地面積は155万㎡となります。
18ホールのゴルフ場がおよそ30haですから、ゴルフ場5ヵ所分のフェアウェイ、グリーン、バンカー、ラフ、林すべてに太陽光パネルを敷き詰めるイメージです。
これで創出できる発電量は1万5000世帯分ほどです。
これだけ広大な土地が必要となるにもかかわらず、発電量は決して多くないのです。
さらに、日本には、太陽光発電所の適地がほとんどないのも大きな問題です。
日本の国土面積のうち、平地は3%しかありません。
これから太陽子発電を設置していこうと考えた場合、山林への設置が考えられます。
しかし、乱開発をすると、静岡県熱海市であったような土石流災害を引き起こすリスクが増大します。
従って、「脱炭素化」のために太陽光発電の設置を推進するならば、家庭の屋根に設置するような「超小型の太陽光発電(10Kw未満)」になるだろうと考えられます。
小さな発電所を地道に設置していくというのは、なかなか骨の折れる作業です。
しかし、太陽光発電を拡充しようと考えたら、こういった計画を遂行する必要があるのです。
・日本の海は「風力発電所」の設置に向かない
続いて、風力発電について考えてみましょう。
今、風力発電というと「洋上風力発電」に熱いまなざしが注がれています。それは、発電コストが安いからです。
ヨーロッパでは「再生可能エネルギーの4番バッター」みたいな扱いで、大きく伸びており、多くの洋上風力発電が建設されています。
最新の大型風力発電では、海面から風車の先端まで、200mを超えるものまで開発されています。
我が国でも、洋上風力発電は再生可能エネルギーの「エースピッチャー」のように注目されています。
風は海上では一定方向に安定して吹きますし、沖合に出れば出るほど強い風が吹き、相応の発電量が期待されるからです。
しかし、一定の発電量が期待できるのは、欧州の北海のように「遠浅な海」だということは、意外と知られていません。
欧州の北海の場合、50kmほど沖合に出ても、水深は50mほどです。
大型風力発電の構造物は「着床式」と言いまして、海底に支柱の基礎を入れて海上の構造物を支えるのですが、遠浅の海ですと、着想式の洋上風力発電を設置できます。
一方、我が国の海は、残念ながら「遠浅」ではありません。
海溝の影響で、沖合に出ると、すぐに深海になります。
洋上風力発電を設置できる場所は沿岸部のごく一部に限られてしまいます。
国が期待するように、再生可能エネルギーの多くを洋上風力発電にゆだねようと思うと、もっと沖合にまで進出しなければなりません。
そこで「浮体式」と呼ばれる構造が必要となりますが、高さ200mを超える巨大な構造物をぷかぷかと洋上に浮かせて、しかもその位置で安定させるのは容易ではないと思います。
その構造物が、動かなければまだよいのですが、大きな風車が回転し続けるのを支えなければなりません。
大型飛行機のジャンボジェット(もう日本では退役しましたが)やボーイング777を縦にして、海上100メートルで常時回転させることを想像してみてください。
このあたり、日本の造船技術、船舶運航技術、ゼネコンの施工能力、そしてエンジニアリング会社の能力など総動員しなければできないと思っています。
それに沖合で発電した電気を、本土まで海底ケーブルを通して運び込まなければなりません。
建設コストや維持費も高くなりますから、電気代も高くなることが予想されます。
以上の理由から、我が国が期待を寄せる洋上風力発電も「ベースロード電源化」への道のりは非常に厳しいものと予想されます。
・「バイオマス発電所」は火力発電所の化石燃料をリプレイスするだけでスタートできる
一方、バイオマス発電は、太陽光発電や風力発電にそびえ立つようなハードルはありません。
なぜならば、既に日本で稼働している火力発電所を「バイオマス発電所」にリプレイスすればいいだけだからです。
具体的には、火力発電所で活用している「化石燃料(石炭)」を、「バイオ燃料」に変えるだけでよいです。
燃料のリプレイスだけでよいのですから、太陽光や風力のように「設置の問題」がありません。
日本全国に設置されている火力発電を有効活用できるため、太陽光や風力を新設するよりも、ずっと簡単かつ安価に「脱炭素化」を実現できます。
ご存じの方も多いかと思いますが、日本の電源構成の70%以上は「火力発電」です。
日本の電源構成(2022年度) | |
火力 | 72.7% |
太陽光 | 9.2% |
水力 | 7.6% |
原発 | 5.6% |
バイオマス | 3.7% |
風力 | 0.9% |
地熱 | 0.3% |
出典:日本経済新聞
日本において、圧倒的シェアを占める火力発電所の燃料(天然ガス・石炭・石油)を「バイオ燃料」に置換すれば、日本の脱炭素化は大きく前進します。
これが、脱炭素化の救世主になりうるのが「バイオマス発電」だと私が考えている大きな理由です。
なお、世間一般では「バイオ燃料の調達がむずかしい」と言われていますが、ポイントさえ抑えれば、それほど難しいことではありません。
その話は、以下の記事でお伝えしています。
気になる方は、是非チェックしてみてください。
バイオマス発電の「燃料調達」について知りたい方向け記事 |
バイオマス発電の燃料調達が難しい理由と安定調達する2つの方法を解説 |
・まとめ
脱炭素化の切り札が「バイオマス発電」である理由について、詳しく解説しました。
ここで本記事の内容を整理します。
●なぜ「脱炭素化」が注目されるようになったのか? 2020年に菅総理が「脱炭素宣言」を公布したから ●「脱炭素化」推進のために押さえておきたい“2つの絶対条件” 1.「再生可能エネルギー」の活用・推進 2.火力発電に代わる「ベースロード電源」を確保する ●脱炭素化のために「バイオマス発電」を拡充すべき2つの理由 ・理由①:バイオマス発電は80%~100%に近い稼働率が期待できるから ・理由②:バイオマス発電は既存の火力発電所の化石燃料を「バイオマス燃料」に置換するだけでスタートできるから |
本記事が「脱炭素化の切り札は何か?」について知りたい方のお役にたてましたら幸いです。