目次
1.注目度ナンバーワン!農業残渣バイオマスとは?
私はこれまで、バイオマスコラムで「農業残渣(ざんさ)バイオマス」について、何度か取り上げてきました。
農業残渣バイオマスとは、作物の食べれない部分など、使い道のない残渣物によるバイオマス燃料です。
捨てる予定の植物を使うという点で、SDGs時代にこそ求められる「期待の燃料」です。
もともと、農業残渣バイオマスとしては「PKS(パームヤシの殻)」のみがFIT認定燃料でした。
それが2023年1月になって、新たに14種類の農業残渣バイオマスが「FIT認定燃料」として認可されました。
「農業残渣バイオマス」の原料 |
・PKS(パームヤシの殻) ・EFB(パームヤシ果実房) ・ココナッツ殻 ・カシューナッツ殻 ・くるみ殻 ・アーモンド殻 ・ピスタチオ殻 ・ひまわり種殻 ・コーンストローペレット ・ベンコワン種子 ・サトウキビ茎葉 ・ピーナッツ殻 ・カシューナッツ殻油 ・稲わら/麦わら(※食用を除く) ・もみ殻(※食用を除く) |
このような動きから、政府としても「農業残渣バイオマスの利活用」に前向きな姿勢であることがわかります。
そもそもなぜ、農業残渣バイオマスは、注目を集めているのでしょうか?
それは、次に挙げるようなメリットがあるからです。
「農業残渣バイオマス」を用いるメリット
メリット | 概要 |
1.原料の賦存量(ふぞんりょう)が多い | 農業残渣バイオマスは、国内外に豊富に存在しているため、枯渇の心配が少ない |
2.食料と競合しない | 農業残渣バイオマスは「捨てる予定の部分」であるため、トウモロコシを使ったバイオエタノールのように、食料と競合しない |
3.原材料費がゼロ | 「捨てる予定の部分」なため「原材料費=0円」である(燃料用に加工する際に、加工方法によっては費用が発生する) |
4.「新産業」として利益をもたらす | 農業残渣バイオマスを使うための加工(乾燥・炭化など)が「新事業」として創出される。それが「新作業」として利益をもたらす |
5.雇用を創出する | 農業残渣バイオマスの「バイオマス燃料化事業(乾燥・炭化など)」により、雇用が生まれる |
このようなことから、私は、農業残渣バイオマスを「SDGs時代にこそ求められる期待のエネルギー」だと考えています。
「農業残渣バイオマス」について詳しく知りたい方はこちらもチェック! |
・【専門家が解説】「農業残渣バイオマス」に秘められた可能性に政府も注目! ・【専門家が解説】農業残渣バイオマスとは?メリット・注意点・入手方法 ・「FIT認定燃料」に認可された農業残渣バイオマス燃料14種類!今後の動向も解説 |
2.航空業界が熱視線を送るのは「SAF」!
もう一つ、皆さんに知っていただきたいトピックがあります。
それは「SAF」です。
「食品残渣物」を有効活用した開発が、世界中で繰り広げられていることをご存じでしょうか。
SAFとは、食用廃油(使用済みのてんぷら油等)などを用いたジェット燃料のことです。
「SAF」について詳しく知りたい方はこちらもチェック! |
・【専門家記事】大注目の「SAF燃料」とは?原料・利点・世界の動向 |
ここ2年くらいの間にもSAFの開発は、随分と進められてきました。
それは、世界中の国々が、脱炭素を目指す手段の一つとして、SAFの利用を推進しているからです。
現状、日本、アメリカ、欧州連合(EU)、シンガポールなどが「SAF利用の義務化」に邁進しています。
日本は、経済産業省が、航空機に給油する燃料の1割を、2030年から「SAF」とするべく、石油の元売り会社に義務づける方針です。
一方、アメリカは、2050年までに航空機で使用される燃料を、全てSAFに置き換える目標を掲げています。
このように、各国でSAFの利用推進が活発化するなかで、SAFの開発競争が繰り広げられています。
●商用“初”のSAF利用はJALの「東京ー札幌便」で実現(2021年6月)
世界で初めて、SAFを用いた商用飛行は、2021年6月17日に飛行した東京発札幌行きのJAL515便です。
このSAFは、イギリスで廃棄物由来のバイオマス燃料を開発するVelocysplcと、東洋エンジニアリングによるプロジェクトの一環で用いられました。
このSAFは、化石燃料よりも、粒子状物質の排出量が90%少ないほか、硫黄や窒素酸化物の排出量がすくないことから、地球環境に優しいものだと伝えられています。
出典:EnergyShift「日航、廃棄物バイオマス燃料で東京-札幌間をフライト 英国系スタートアップと東洋エンジが供給」
●ユナイテッド航空、食用油などによるSAF100%で「世界初飛行」(2021年10月)
アメリカのユナイテッド航空は2021年10月に、乗客なしでのテスト飛行にて、「100%SAF」による飛行に成功しました。
その2ヵ月後の2021年12月には、500ガロンのSAFを充填し、100人以上の乗客を載せて、シカゴ・オヘア空港から、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港まで飛行しました。
出典:IDEAS FOR GOOD「世界初、100%持続可能な燃料で飛ぶ旅客機」
●「農業残渣系SAF」のスタートアップ企業、69億円の調達に成功(2023年5月)
農業残渣から、SAFを製造する方法を開発したのは、スタートアップ企業の「CleanJoule」。
とりわけ、石油などのジェット燃料と混合せず「SAFの含有量100%」での飛行を実現できる燃料の開発に成功したことから、大きな注目を集めています。
資金提供に協力したのは、フロンティア航空、Wizz Air、Volarisの3社。
航空会社は、最大9000万ガロンのSAFを購入する契約を締結している模様です。
以上の通り、3本のニュース記事をご紹介しました。SAFの開発が急速に進展していることがわかります。
なお、日本政府は「国内から飛び立つ飛行機には一定割合のSAF搭載が必要」と考えていますが、原料が足りないため、今後は「林業残材」などを原料としてSAFを製造したいという話を耳にしました。
食品廃油のみならず「農業残渣物」や「林業残材」も含めて、さまざまなバイオマス資源が、SAFの原料になることが予想されます。
今後とも、新しい情報が入りましたら、皆様にお伝えしたいと思います。
出典:
ESG Journal「SAFスタートアップCleanJoule、約69億円を調達」
3.まとめ
「農業残渣バイオマス」や「残渣系SAF」について、理解が深まりましたでしょうか。
ここで、本記事の内容を整理します。
●注目度ナンバーワン!農業残渣バイオマスとは?
農業残渣バイオマスとは、作物の食べれない部分など、使い道のない残渣物によるバイオマス燃料のこと
「農業残渣バイオマス」の原料 |
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・PKS(パームヤシの殻) ・EFB(パームヤシ果実房) ・ココナッツ殻 ・カシューナッツ殻 ・くるみ殻 ・アーモンド殻 ・ピスタチオ殻 ・ひまわり種殻 ・コーンストローペレット ・ベンコワン種子 ・サトウキビ茎葉 ・ピーナッツ殻 ・カシューナッツ殻油 ・稲わら/麦わら(※食用を除く) ・もみ殻(※食用を除く) |
メリット | 概要 |
1.原料の賦存量(ふぞんりょう)が多い | 農業残渣バイオマスは、国内外に豊富に存在しているため、枯渇の心配が少ない |
2.食料と競合しない | 農業残渣バイオマスは「捨てる予定の部分」であるため、トウモロコシを使ったバイオエタノールのように、食料と競合しない |
3.原材料費がゼロ | 「捨てる予定の部分」なため「原材料費=0円」である(燃料用に加工する際に、加工方法によっては費用が発生する) |
4.「新産業」として利益をもたらす | 農業残渣バイオマスを使うための加工(乾燥・炭化など)が「新事業」として創出される。それが「新作業」として利益をもたらす |
5.雇用を創出する | 農業残渣バイオマスの「バイオマス燃料化事業(乾燥・炭化など)」により、雇用が生まれる |
●航空業界が熱視線を送るのは「残渣系SAF」!
・商用“初”のSAF利用はJALの「東京ー札幌便」で実現(2021年6月)
・ユナイテッド航空、食用油などによるSAFで「世界初飛行」(2021年10月)
・「農業残渣系SAF」のスタートアップ企業、69億円の調達に成功(2023年5月)
本記事が、「農業残渣バイオマス」や「残渣系SAF」について知りたい方のお力になりましたら幸いです。