【専門家コラム】バイオマス発電事業に「J-クレジット制度」は使えない理由

バイオマスコラム
Aerial view coal power plant station in the morning mist, the morning sunrises. coal power plant and environment concept. Coal and steam. Mae Moh, Lampang, Thailand.

1.「J-クレジット制度」とは何か?

皆さんは「J-クレジット制度」をお聞きになったことはありますか?

「J-クレジット制度」とは、再生可能エネルギーの導入などによって行われた「CO₂(二酸化炭素)の削減・吸収」に対して「クレジット」を付与し、「クレジットを資金化したい企業」と「クレジットを購入したい企業」の間での「売買」を実現する制度です。

これだけでは、ちょっとわかりづらいため、以下の図をご覧ください。

ご覧いただくとわかる通り、「J-クレジット制度」には「創出者」「購入者」の2者がいます。

出典:J-クレジット制度「J-クレジット制度について

「創出者」は、再生可能エネルギー設備・省エネルギー設備などを導入して、CO₂を削減した場合、その削減量に応じて、クレジットが発行されます。そのクレジットを「資金化」できます。

つまり、「J-クレジット制度」の創出者は「CO₂の削減実績(=クレジット)を現金化できる」ということです。

一方、「購入者」は、創出者が実施した「CO₂の削減実績(=クレジット)」を購入する人です。

例えば、「自社で掲げたRE100の目標を達成したい」と考えているが、達成に至っていない場合。

「J-クレジット制度」上で「購入者」になることで、創出者が作り出した「CO₂の削減実績(=クレジット)」を購入できます。

購入した「CO₂の削減実績(=クレジット)」は、自社が掲げた「CO₂の削減目標」の達成に向けて、加算することができます。

これが、「J-クレジット制度」上で購入者になるメリットです。

以上の内容を、下表にまとめてみました。

参考にしてみてください。

「J-クレジット制度」における2者の役割
創出者●概要
再生可能エネルギー設備・省エネルギー設備などを導入して、CO₂を削減した場合、その削減量に応じて「クレジット」を発行・資金化できる

●「クレジット」を販売するメリット
①資金が得られる
②温暖化対策に取り組む企業としてPRできる
購入者●概要
創出者が作り出した「CO₂の削減実績(=クレジット)」を購入できる

●「クレジット」を購入するメリット
①自社が掲げた「CO₂の削減目標」の達成に向けて、購入したクレジットを加算できる
②温暖化対策に取り組む企業としてPRできる

共通点は、「創出者」も「購入者」も「温暖化対策に取り組む企業としてPRできる」ということです。

それが、「J-クレジット制度」を利用する利点です。

2.バイオマス燃料は「カーボンニュートラル」でも「J-クレジット制度」を活用できる理由

「J-クレジット制度」の創出者になるには、制度の要件を満たす必要があります。

詳細は本制度のホームページ等を確認していただきたいですが、ここでは、創出者になれるケースを一つご紹介しましょう。以下の通りです。

「J-クレジット制度」の創出者になれるケース
工場で「湯沸かし」をするために使っていたボイラーの燃料を「化石燃料」から「木質ペレット」に切り替えるとき

CO₂を発生させる燃料(=化石燃料)を、CO₂を増やさないカーボンニュートラルな燃料(=木質ペレット)に切り替えることで「削減できたCO₂の量」に応じて「クレジット」を発行できるというパターンです。

ここで鋭い方は、

「化石燃料→バイオマス燃料への切り替えは『カーボンニュートラル』になるだけ。CO₂の削減にはつながらないから、クレジット化できないのでは?」

と考えるかもしれません。

たしかに一見、このパターンは「カーボンニュートラル」であり「カーボンネガティブ(CO₂を削減)」ではありません。

しかし、実はこの制度では「クレジット化」できます。

なぜならば、この制度には「ベースライン」という考え方があるからです。

「ベースライン」とは「再生可能エネルギー等を導入しなかった場合」のCO₂の排出量のことです。

つまり「もしも、化石燃料だったら、これだけのCO₂を排出していた」という基準値のことです。

言うまでもないことですが、その基準値と比べれば、化石燃料を使う場合よりも、CO₂を削減できます。

実際は計算方法などがあるため、簡単な計算ではありませんが、ここでは、わかりやすいよう、ごく簡単な数字を用いた「たとえ話」で説明しましょう。

例えば、化石燃料の使用によって発生していたCO₂が「5」で、木質ペレットの使用によって「0(=カーボンニュートラル)」となった場合、差分となる「5」がクレジットになるということです。

このような理屈から「化石燃料→バイオマス燃料」への切り替えは、「J-クレジット制度」の利用ができる条件の一つとなります。

「ベースライン」という独自の考えがあることを、覚えておいてくださいね。

自社がJクレジット制度を利用できるかは、制度の運営を行う事務局に問い合わせてみてください。

3.バイオマス発電事業に「J-クレジット制度」は使えない!

これまでの話を通して、

「バイオマス発電所も『J-クレジット制度』上で『CO₂削減実績(=クレジット)』を資金化できそうだ」

と思った方もいるかもしれません。

その点について、結論を申し上げますと、残念ながら「NO(できない)」です

なぜならば、「J-クレジット制度」において、「CO₂削減実績(=クレジット)」の売買対象になるのは「自家消費」に限られているからです。

「バイオマス発電所で作り出した電力を販売している」など、事業化している場合には「CO₂削減実績(=クレジット)」を売ることができないのです。

これは知っておきたい注意点です。

「J-クレジット制度=自家消費限定」と、覚えておきましょう。

4.「自家消費のボイラーの燃料をバイオマスに変えたい!」という場合は「J-クレジット制度」を活用するのがおすすめ

ここまでの内容を通じて「J-クレジット制度」がどのようなものなのか、理解が深まったのではないかと思います。

そして、Jクレジット制度の「創出者」になりたいと考えた方もいることと思います。

もしも、そうならば「プロジェクト計画書」を作成しましょう。

プロジェクト計画書を作成することが、「J-クレジット制度」制度の創出者になる条件だからです。

Jクレジット制度のホームページ上では、とても親切なことに、プロフィール計画書の「記入例」が複数パターン用意されています。

例えば、工場で使っていたボイラーの燃料を「化石燃料」から「木質ペレット」に切り替えるのであれば「バイオマスボイラーの導入プロジェクト(通常型)」の記入例が参考になります。

5.まとめ

いかがでしたか。

「J-クレジット制度」について、理解が深まりましたでしょうか。

ここで、本記事の内容を整理します。

●「J-クレジット制度」とは何か?

「J-クレジット制度」とは、再生可能エネルギーの導入などによる「CO₂(二酸化炭素)の削減・吸収」に対して「クレジット」を付与し、「クレジットを資金化したい企業」と「クレジットを購入したい企業」の間での「売買」を実現する制度

●バイオマス燃料は「カーボンニュートラル」でも「J-クレジット制度」を活用できる理由

CO₂削減のクレジットは「再生可能エネルギー」を導入しなかった場合と比較した「削減量」に応じてクレジットを発行できる「ベースライン」という考え方があるから

●バイオマス発電事業に「J-クレジット制度」は使えない!

「J-クレジット制度」において、「CO₂削減実績(=クレジット)」の売買対象になるのは「自家消費」に限られている

「自家消費のボイラーの燃料をバイオマスに変えたい!」といった場合は「J-クレジット制度」を活用するのがおすすめ

もしも、工場で使っていたボイラーの燃料を「化石燃料」から「木質ペレット」に切り替えるといったケースならば「バイオマスボイラーの導入プロジェクト(通常型)」の記入例が参考になる

本記事が、「J-クレジット制度」について知りたい方のお力になりましたら幸いです。